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バンブツルテン

観たり読んだり聴いたり行ったり考えたり

『風流江戸雀』『ゑひもせす』(杉浦日向子)

風流江戸雀風流江戸雀
(2007/09/27)
杉浦 日向子

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ゑひもせす 新訂版 (アクションコミックス)ゑひもせす 新訂版 (アクションコミックス)
(2005/12/26)
杉浦 日向子

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今出てる『ユリイカ』の日向子さん特集増刊号を読んでいてふと、
日向子さんの作品について書いたことがまだなかったことに気づきまして
なんだかびっくりしているところです。

日向子さんという人の最初の印象は、「『お江戸でござる』の解説の人」でした。
父が好きで見ていたこの番組のコントの後で、着物を着て江戸風俗に関して
いろいろと説明する、笑顔の可愛い女性。

日向子さんの姿を番組で見なくなってから、彼女がマンガ家であったことを知りました。
作品を読んで、明らかに他のマンガとは違う、というかそもそもこれはマンガなのか?と
思わされるような、恐るべき個性に圧倒され、
憑かれたようにマンガやエッセイを読み漁っているときに、彼女の訃報に接しました。
既にマンガの筆は折られていたとはいえ、リアルタイムで好きな作家の死を
経験したのは初めてだったので、それは物凄いショックだったのを覚えています。

初めて読んだ彼女のマンガ作品が『風流江戸雀』(新潮文庫版)でした。
描線もネームもあっさりしているのに、ページ内の情報量はすごく多い気がして
それがとても不思議に思えました。
そういう感想を持てたのは、まだこの作品が他の一般的なマンガと
さほど変わらない技法で描かれているからだろうな。今思えば。
その後『ゑひもせす』を読んだときにはもう完全に、
ネームがどうのページの情報量がどうのというレベルを越えた作風に
ごちゃごちゃ考えることの野暮を思い知らされました。

彼女の描いた江戸が、200年前の東京の本当にそのままの姿だったのかは
誰にもわからないし、わかってもしょうがないと思う。
ただ、他の多くのマンガ家が江戸を描いたときに、その作品から感じられる
「気負い」のようなものが、日向子さんのマンガには一切ない。
日向子さんの江戸は、読み手に「実際にあるものをそのまま描いた」
としか思わせないような、異常なリアリティを持っていて、
それが唯一無二の彼女の作品の魅力なのだと思います。

作品は現在新潮文庫ちくま文庫でほとんど揃います。
画像のような綺麗な装丁の単行本か、ちくまの大判の全集でも揃えたいなあ。