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『ショート・アラベスク』(手塚治虫)

ショート・アラベスク (手塚治虫漫画全集 (239))ショート・アラベスク (手塚治虫漫画全集 (239))
(1982/08/10)
手塚 治虫

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眠られぬ夜にブログ更新。
↓の記事でちょっと触れた作品です。

青年誌連載の『刑事もどき』『ヒョーロク記』の各シリーズ(どちらも2話で終了)、
「ライオンブックス」シリーズの1エピソードである『成功のあまきかおり』、
そして「サンデー毎日」に連載されたショート・ショートが収録されています。
いろんな意味でごった煮な印象で、そのためどれか一つのタイトルを表題にせず
この書名(とこのカバーイラスト。大好きだ!)になったんだと思います。

詐欺師(ゲイ)と刑事の奇妙なコンビを主役にしたミステリ風の『刑事もどき』は
他の手塚青年マンガ同様ちょっと劇画っぽい演出を取り入れており、
キャラクター設定も凝っていて、続いていたらもっと面白くなってただろうなーと
思わされますが、他の作品は『成功のあまきかおり』を除いて全て大人向けの
軽いタッチで描かれているため、肩の力を抜いて描いている感が強いです。

フレドリック・ブラウン風」とされているショート・ショート集
(私たちの世代にわかりやすく言い換えるなら「筒井康隆風」?)は
あとがきで「玉石混交」といわれてますが、ネタがギャグ的なものと
シリアスなものがあるというだけで、作品自体の質はきわめて高いです。
『成功のあまきかおり』に関しては「駄作」と言い切ってしまってますが、
相当くだらないネタをジェンダーに絡めてシニカルに(でもくだらなく)描いていて
これはこれで巨匠の意外な一面という感じで面白いと思います。

現在のところ全集でしか読めない作品が多く載っているせいもあって
マニア向けではありますが、この人の短編の手腕にうなりたい人には
是非読んでほしい本です。