バンブツルテン

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「ザ・シサ」(筋肉少女帯)―このアルバムはフィクションです/ある1ファンの視点から

筋少の新譜が出た時と年末年始以外めったに更新しないブログになってしまっているわけだが、例によって筋肉少女帯デビュー30周年記念オリジナルアルバム「ザ・シサ」の発売に伴い更新します。

ザ・シサ (初回限定盤A)
 

 
毎度書き方を模索しているのですが、このやり方がやっぱ書きやすいかなと「Future!」の時に思ったので、とりあえず踏襲。

各種インタビューでの発言を前提に書いているので、一応それらを貼っておきます。

まずは1曲ごとの感想。
このたびサブスクリプションサービスでも280曲以上解禁になったということなのでリンクを貼っていってみようと思います。私がSpotify使ってるのでSpotifyです。
CD(物理音源のことフィジカルっていうんだってね!最近は!)持っててもたまにサブスクで聴いてみたりするとランキングに貢献とかもできて良いのかな。

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01. セレブレーション

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「ファンファーレ的な」と事前の記事で見ていたので、個人的には「サンフランシスコ」とか、あるいは「トゥルー・ロマンス」みたいな感じの始まり方を予想していたのですが、フタを開けてみれば、それはライブで何十回、何百回と聴いてきた、「あの」音から始まる曲でした。
ニコ生のイントロクイズでもネタになっていたとおり何度か音源にもなってきている、筋少ライブでおなじみの、幕開けの、かき回し。

うわあ、これ、これだよ、と思わせておいてから始まるのは、ゆったりとゴージャスな祝福の音楽。系統的には「レティクル座の花園」あたりを連想もするし、橘高さんのギターのメロがとっても「らしい」気がしたので、橘高曲だと言われても納得したかも。

 

02. I, 頭屋

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インストゥルメンタルの1曲目に続く2曲目にして、異常に言葉数が多い。
ファンキーなリズムにオーケンの心情吐露(のように見える)歌詞というか語りということで、何をどうしたって連想するのはもちろん「サーチライト」でしょう。

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私は初めて「サーチライト」を聴いた時はだいぶショックで、というのは、「この歌詞を見て、歌を聴いて、オーケン以外のメンバーはいったいどう思ったんだろう…? そして当時のファンは、これをどう受け止めていたんだろう…?」ということを考えてしまったから。
その時バンドはすでに再結成後で、リリース当時のことは完全に後追いで記録をたどるような感じだったんですが、この歌をライブで演奏している時のメンバーと、聴いている時のファンの気持ちとか考えちゃうといたたまれないな、と思ったわけです。

やがて、「そういう歌詞」の曲が筋少には決して珍しくないことを知って、いちいちショックを受けることはなくなったんだけども、それでも「サーチライト」に関してはやっぱり、リアルタイムでの受け取られ方を知りたい気がする。

で、今回の「I,頭屋」です。
途中までは生々しいオーケンの本音のように見える歌詞に心がヒリヒリしたんだけど(「顔にヒビを入れられ」「南無阿弥陀 コートを着せられ」とか、ディティールまでいやに細かいんだ)、「おや?」と思ったのは2番Aメロの、「身代わりを探す」くだりから。ここで、すごく、「この物語はフィクションです」という提示を受けたような気がしました。それは、アルバム全体に対して。

フィクションである、というフィルターを挟んだうえでも、どうしてもこの曲の主語はオーケン(本人というより、「筋肉少女帯のボーカル大槻ケンヂ」というキャラクターとして)であるとは思うんだけど、そこで「俺たちはクレイジーをやり切る役割なんだぜ!」と、主語が複数形になっているのもとてもキーになるところな気がした。
「俺」が「筋肉少女帯のボーカル大槻ケンヂ」なのであれば、「俺たち」はきっと筋肉少女帯だ。これが、オーケンの苦悩が孤独なものではないように感じさせてくれる効果につながって、個人的にはなんというか、安心感を得ました。

あと面白いのは、この曲の主人公は「もーいいよ」も聞こえていないし、「許されてもダメ」と思っているところなんだよなあ。
役割だから、置かれたところで狂い咲く。そう決めたんだよ!という宣言のようにも聞こえる。それは、個人的には、ゴメンな!とも思いつつも、とても嬉しい、ありがたい宣言です。

「リアルかくれんぼの鬼」は、天皇崩御=「おかくれになる」と「リアル鬼ごっこ」にかけた引用かな。

 

03. 衝撃のアウトサイダーアート

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これはナタリーのインタビューなんかでも触れられていたとおり、「安心枠」というか、「これぞ筋少」「これぞ橘高節」という感じの1曲。
「激しい恋」をアウトサイダー・アートになぞらえた歌詞といい、非常に様式美的な構成に演奏といい、それこそ何かのCMソングでもあるような。
これもとても「フィクション」を感じる曲でした。

 

04. オカルト

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そしてリード曲「オカルト」。

これも非常に「よくできた曲だなー!」というのが第一印象でした。
あまり「似た曲」が過去にないという意味では、とても「面白い」曲。
私はMV撮影をしたという9月24日のライブに行けなかったのもあり、「ザ・シサ」収録曲の初聴きは完全にこの「オカルト」のMVだったんですが、これをもって「ザ・シサはおそらく面白いアルバムっぽい」という印象を持っていました。

最後の最後でグッとカメラが引く、視点がグルッと転換させられる感覚もすごく気持ちよくて、これは個人的には藤子・F・不二雄先生の短編『どことなくなんとなく』という作品を連想しました。

www.shogakukan.co.jp

試し読みとかどっかでできないかと思ったんですがないようなので、読んだことなくて気になった方はぜひ短編集買ってみてください。面白いです。

MVの、歌詞がいちいち東スポやムーの見出しとか検証映像のキャプションぽく加工されて出てくるのも楽しかった。
対バンで見た打首獄門同好会のライブを思い出したりしました。

あと、情報量が多いせいか曲を聴いているとMVの映像がどうしても頭に浮かんじゃいますね。
どういうことかというと間奏では「筋少スペシャル」のロゴが浮かぶし、おいちゃんの逆回しのとこではその画が思いうかんでニコニコしちゃうということです。ウフフ

youtu.be

ライブでは「ピュイピュイ」の音のとことか「ハイハイ!」が楽しそうだな。

 

05. ゾンビリバー~Row your boat

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これはラジオで一回聴いて、「言葉が多い!」「面白い!」「なんか演奏がヤバい!」という印象を持っていた曲。これもザ・橘高曲って感じですね。

インタビューでは、「この曲は人生そのもののことかもしれないし、筋肉少女帯のことなのかもしれない」みたいな曖昧な表現がされていたけれど、どうしても筋少についての歌だという視点をひとつは残しておきたいと思わされるのは、ひとつにはサビの分厚いコーラスやメンバーそれぞれが台詞を言う小芝居が含まれてることがありますが、もうひとつは、春のギターズの弾き語りツアーで、橘高さんが筋少のことを「船」に喩えていたからなんです。

 

https://twitter.com/fumfum_ks/status/988026724003692549

https://twitter.com/fumfum_ks/status/988026724003692549https://twitter.com/fumfum_ks/status/98802672400369254その時は筋少は「大きな船」と表現されていて、今回は「僕らにあるのは小さなこのボート」ではあるわけだけれども、それは、客観的に見たら豪華客船でも、舵を取る側からしたら「小さなボート」であるということかもしれない。視点の差異、視差。

歌詞も面白い。
「世界は人の思い出」というフレーズは、わかるようなわからないような。
「きりもみだぜゾンビリバー」「しびれちゃうゴンヌズバー」あたり笑いますね。好きですね。
「ゴンヌズバー」ってオーケンのエッセイとか以外で見たことない言葉なんだけど、元ネタあるのかな。

Row your boatの出てくる「ダーティハリー」はプライムビデオで観られるようなので、そのうち観てみたい。これだよね?

amzn.asia

 

06. なぜ人を殺しちゃいけないのだろうか?

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出オチじゃないけれど、びっくりするタイトル。
曲はおいちゃんだよねー!って感じのとっても明るいミドルテンポのポップソング。
この曲の歌詞については、後でちょっと触れたいのだけど、ある意味「Future!」の視点を引き継いでいる内容のような気がしているし、そうでない気もしている。

恋人をちょっとやっちゃった「彼女」は、一つ前の「ゾンビリバー」で主人公が「ひととき好きだった、流れていったあの娘」だったりして、なんてことも思った。「ザジ、あんまり殺しちゃだめだよ」のザジかな、というのももちろん。

あと、水城せとなさんが「イブニング」で連載中の『世界で一番、俺が○○』というマンガに、主人公の一人である男子が好きな女が「恋人をちょっとやっちゃう」エピソードがあり、なんとなく連想しました。面白いのでオススメです。

evening.moae.jp

 

07. 宇宙の法則

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仮タイトルが「アニバーサリー」だったというのも納得の、徹頭徹尾美しい橘高バラード。キラキラと輝くピアノ、ギター、シャララララ…って音はウィンドチャイムなのかな? 
とにかく、言葉の数が少ない分だけ、余白を埋め尽くすような美しい音で彩られた、ぜいたくな曲だと思います。

古い小さな喫茶店にいる若い二人は「ベティー・ブルーって呼んでよね」の二人なのか? 動かぬものを抱いた老いた男は「町のスケッチ」の「少女人形を抱いたおじいさん」なのか? この曲も、過去の歌に登場した人物へのリンクが気になる。

「生きてても何もいいことはないさ」は、個人的に、とても口ずさみたくなるフレーズです。
こういう厭世的な、シニカルな視点ってずーっと筋少が歌ってきたことのひとつでもあると思うけど、それを「白け あの少年 靴を見る」と、客観的に描写していることにはすごく、救いみたいなものを感じる。

「来世でも再びお逢いしましょう」は前作から引き続いてきたテーマであるわけだけど、同時に「来世でこそきっとお逢いしましょう」というフレーズも登場しているのはゾクッとするところで、「今世では出逢えなかった」相手に想いを馳せての歌なのかもしれないと思うと、若干スピリチュアル感のあるタイトルにもつながる怖さを感じる。

 

08. マリリン・モンロー・リターンズ

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もともと2曲だったものを組み合わせたというおかげで、面白い構成になっている曲。「カメラを止めろ!」は「カメラを止めるな!」からかな。
「過去を返して 全て返してよ」と迫る女は、前作の「わけあり物件」で「きれいな私に戻してよ」と迫っていた女を思わせる。女、怖いねー。

open.spotify.com

終盤の固有名詞連呼のあたりは「飼い犬が手を噛むので」を連想しつつ、「シャロン・テート」にはもちろん「サンフランシスコ・10イヤーズアフター」を思うし(オーケンは「10イヤーズアフター」にシャロン・テートが出てくることを忘れていたが・笑)、「御船千鶴子」が音に乗れてないところがめっちゃいいですね。

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「10イヤーズアフター」(というかアルバム「SAN FRANCISCO」)は配信されてなかった。

 

09. ケンヂのズンドコ節

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出オチというかビックリタイトル曲ぶっちぎりのNo.1。
先斗町」「バチカン」の元ネタがわからない。なんかあるんだよねきっと?
知ってる人教えてくれ。

一時期トークイベントやライブのMCでよく言っていた「いいんぼう(いい陰謀)」「わるいんぼう(悪い陰謀)」が登場。
お前が上手くいかないのは陰謀だよ、と一度甘い言葉を吐いておいてから、お前が上手くいかないのはお前のせいだよ、他人のせいにするな、と突き放していくスタイル。
これも「飼い犬が手を噛むので」をちょっと感じるかな。ただ、どっちにしても上手くいくのは「いい陰謀」であると言っているのは面白い。

矢を射る天使(「ノゾミ・カナエ・タマエ」)の登場といい、奇妙にすぎる展開といい、なんとなくレティクル座妄想的な曲かもしれない。

 

10. ネクスト・ジェネレーション

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事前披露でものすごく物議をかもしていたっぽい1曲。
これ、アンモラルな曲みたいに見えるけどそうじゃないんだよSFだよ、とオーケンがインタビューで言っているけれど、申し訳ないけど、そうは思えない(笑)。

老いも若きも、女性リスナーはそろってなにがしかを考えずにはおれない内容な気がします。締めの「恐るべし 遺伝子」がすっとぼけていて良い。

メロディと歌い方についてはマーク・ボラン的な解釈であるというのは、私はあまり詳しくないんだが、そういう印象を持っていたので、当たった!って感じでした。

 

11. セレブレーションの視差

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01「セレブレーション」の全貌、にオーケンポエトリーリーディングが乗った曲。
祝福の音楽、まさしくそれでしかない音楽に乗せて語られる内容がとても興味深い。
シチリアのマフィアの皆殺しはきっと何かの映画だろうと思うんだけど、二人の花嫁の結婚式にも元ネタはあるのかな? 最近普通にそういうカップルの話は増えているからそれを反映しただけだろうか。

たまらなかったのは、「バンドが全く別の人々とすっかり入れ替わっていた」瞬間=「君が生涯ただ一度の激しい恋に堕ちたあの日」という箇所。
これも後でちょっと触れたいんだけど、それは私にとっては、筋肉少女帯というバンドに出会ったあの日のことだと思う。

特撮「ケテルビー」の「猫かと思ってよく見りゃパン」「喜びに見えるものは悲しみかもしれない」というテーマのリプレイであり、17年を経ての「続き」かもしれない。

「何もかも愛すべきものだったと思う視点から見たらいい」という総括は雑すぎやしないか、と思わせたところで、最後にその姿勢に対しても懐疑の目を提示して終わる。

頭から終わりまで、「視差」について言葉を尽くして考えている曲ですね。

あとは、「青春の蹉跌のテーマ」を考えたりもするかなあ。やはり。

 

12. パララックスの視差

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私は本当に、音楽全体についてすごく詳しいわけではなくて、筋少とかオーケンの記事やエッセイに登場するミュージシャンは遡って聴いてみている、みたいなかじり方をしている人間なんですが、この曲はそれでも、「バカテク」という表現がぴったりくるんだろうな……と思わざるを得ない。
変拍子とか、ベースのうねり方とか、すごくプログレを感じる曲で、もちろん内田曲。

真っ白な掃除機が「体に見える」「心に見える」、恋する二人を描いたこの曲が、オーケンの中では「30周年を意識して書いた詞」であったというのは、ちょっと難解なところだなと思います。どういうことなんだろうか? 考え続けていきたい。

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さて、ここからはまとめ的に考えた「ザ・シサ」のすごいとこです。

まずひとつは、各メンバーの個性がそのままの方向に200%発揮されているところ。

「Future!」の感想として私が持っていたものの一つが、「各メンバーの(というか、おいちゃんと橘高さんの)個性がミックスされている」でした。
橘高色が薄いとも思った。これはたしか「YOUNG GUITAR」のレビューでも書かれていたことだったけど、直球メタルのおいちゃん曲「人から箱男」、ファンキーなカッティングが印象的な橘高曲「T2」とか。

それはそれですごく面白かったし、物足りないとか思ったわけでは全然なかったんだけど、今回、特に「衝撃のアウトサイダー・アート」「ゾンビリバー~Row your boat」「宇宙の法則」はどっからどう聴いても橘高曲だろ!って感じだなあと思ったわけです。

一方で、うねうねしたリズムの「I,頭屋」「オカルト」、明るくポップな「なぜ人を殺しちゃいけないのだろうか?」「ネクスト・ジェネレーション」はどっからどう聴いてもおいちゃん曲だろ!と。
(前述のとおり、「セレブレーション」は橘高曲だと言われても個人的には納得した気がする)

「ケンヂのズンドコ節」「パララックスの視差」にしても、このおかしい(ほめ言葉)曲とプログレ!な曲は、どっからどう聴いても内田曲だろ!って感じで。

さらに、長尺の語り(ポエトリーリーディング)、曲に対して異化効果を生むギョッとさせる歌詞、という点では、オーケンの歌詞も、オーケンにしか書けない感200%な感じ。

つまり、各メンバーの「これぞ!」っていう個性が、そのままの方向に、ぐぐーっと全面的に発揮されていると思うんです。
そして、曲のそれぞれの個性に、オーケンのビンビンに冴え渡った歌詞が乗ったことによって、各曲のポテンシャルが天井知らずに引き上げられている感がある。

 

次に、前作「Future!」から続く、筋少の「進化」が感じられるところ。

リマスター再発した影響で90年代後半筋少の感じを出したかった、という話もあり、確かにそれを感じさせはするんだけど、たぶん、技術的に円熟したということだったり、もっと新しいチャレンジをしていきたい思いだったり、そういうものの影響で、たしかに「再結成前を感じさせる」アルバムではあるけれど、単にそれだけには決してとどまっていなくて、休止中のそれぞれの活動や、再結成後の12年を経たことによる、そしてこれから先につながっていくのだという希望も含んでの、確かな「進化」を感じさせられました。

「Future!」があまりにも素晴らしくて、たった1年後に次のオリジナルアルバムが出るの、嬉しいけどちょっと待ってよ、という心境でした。正直。
でも、その恐れを200%でもって裏切ってくれたことによって、私の筋少に対する信頼(信仰といってもいい)はまた篤くなってしまった。

何が理由なのかは、リスナーの立場としてはわかりゃしないので完全に想像でしかないんだけど、一応ちょっと考えたことを書いておいてみると、「Future!」に「猫のテブクロ」再現ツアーが影響し、「ザ・シサ」に90年代後期のアルバムのリマスター作業が影響したということから、「年数が経ったことで、過去の音源に見られた筋少の魅力を、今の筋少に、まったく新しい形で反映できるようになった」のかなということ。

あとはオーケンが個人で弾き語りやメンバーを固定しないソロプロジェクトを始めたことで「やりたいこと」がはっきりして、それを実際に「やれる」ことになったことで、オーケンの「作詞脳が覚醒」したのかな、ということ。

いわゆる「語り」のある曲、しばらくめっきりやめていたのに、ソロプロジェクト「大槻ケンヂミステリ文庫(通称オケミス)」で大々的に「こういうのがやりたい」と取り入れ、それはまあ想定内ではあったんだけれども、筋少の楽曲にもその要素を入れてきたのが個人的には少し意外だったんですが(そういうのをやるためにオケミスを立ち上げたのかなと思ったので)、それによって「2018年の新しい筋少」が生まれたような気がする。

それはすごく、すごく、ものすごく、嬉しかった変化です。

 

それから触れておきたいのは、「愛とか恋とか」の扱いについて。

前作「Future!」では「愛とか恋とかわからないサイコキラー」や、「愛の意味がわかんない人間モドキ」の歌が歌われた。
その歌詞には私も個人的にとても共感したし、「ああ、私のような人間のことを歌ってくれている」と思った。

けれど同時に、オーケンはいつも「お仕事でやってるだけかもよ」の姿勢を崩さない、徹底した「俯瞰の人」でもあり、サイコキラーや人間モドキの気持ちを「描いている」にすぎない、ということも、頭の隅に置いておいたほうがいいんだろうな、とも思っています。

今回のアルバムでは、「愛とか恋とか」を歌った詞が多い。
登場人物の多くが恋をしている。
それが、前作で我ら人間モドキに寄り添ってくれたはずのオーケンの、裏切りとは言わないまでも、変節のように見えてしまう面もあるかもしれない。

でも、たぶん、同じなんだと思います。サイコキラーや人間モドキを歌うことも、愛や恋に身を焦がす恋人たちを歌うことも、同じように、「物語」を歌っているのだと思う。

自分も含めて前者に共感できる人がたぶん筋少のファンには比較的多いけど、後者には筋少ファンも含めた多くの人が共感できるのだろうなと思う。
それが、これは別の曲への言及ではあるけれども、オーケンの「一般の人に伝わるように書いたつもり」という発言の意味するところのような気もするし。

natalie.mu

とにかくこのアルバムってすごく「物語」「フィクション」であることを強く感じるから、登場する恋人たちの物語も、フィクションとして私は眺めています。

ただ、それでも、やっぱり前者に寄り添ってくれてるんじゃないかな、と個人的に感じたのは「なぜ人を殺しちゃいけないのだろうか?」の「愛し過ぎたあいつら」に対して「同情はしないけど くやしいな」と主人公が感じるところ。

これは、主人公がこの女友達のことを好きだったというようにももちろん読めるけれども、私は「殺してしまうほどに愛し過ぎる」感情を持てることを「うらやましい」と思う気持ちが「同情はしないけどくやしい」という表現になってるんじゃないのかな、と解釈しています。

そもそもこの曲の、「人が迷惑したりガックリしたりするから人を殺してはいけない」というテーマって、とても「人間モドキ」的だなとも思うし。

「来てくれなかったけど 憎めはしなかった」あたりは、やっぱり、主人公はこの女友達のことが好きだったんだと考えるほうが自然に読めるし、私の解釈は強引で無理矢理なのかもしれないけれど、見たいように見たらいいじゃない、と思うので。

それと、「セレブレーションの視差」。
「実は30年の間にそのバンドは全く別の人々とすっかり入れ替わっていたのかもしれない/もしそうなら それは あなたの思うその時だ 間違いない/君が生涯ただ一度の激しい恋に堕ちたあの日だ」というフレーズです。

これは字面通りに読めば「激しい恋によってものの見方が変わる」ことを提示しているわけですが、「激しい恋」そのものが、何か別のもののたとえであるとも考えられると思う。

で、私はこのフレーズは、先に少し述べたとおり、「筋肉少女帯というバンドに自分はあの日から激しい恋をしているのだ」という意味で解釈しています。

「生涯ただ一度の激しい恋」って、自分の場合は筋少に対してしか永遠にあてはまらない描写だと思うから。

その時にバンドが「全く別の人々とすっかり入れ替わっていた」というのはつまり、その日から私が見る筋少は、「私」というフィルターを介した存在になっているから。

それは筋少というバンドの側と、筋少をファンの立場で見聞きする私に「視差」がある、ということなのだと思います。

これは別の方のツイートでも書かれていたことで、同じことを私も考えたよということでここに記すことを許容いただきたいのですが、「ツアーファイナル」で「僕らは一夜の恋をした」と歌われていた、その「一夜の恋」こそが、自分にとっての「生涯ただ一度の激しい恋」だってことなんです。

open.spotify.com

この曲を聴きながらそれを考えた時に、私は泣けてしかたなかったです。

そういう視点から捉えたい。少なくとも、私は。

 

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「世の中には視差がある、正しいものなんて何もない」という、今回のアルバムに通底するテーマ、考え方は、私はすごく好きというか、絶対に常に持っていたいなと思うもので、そういうことを提示してくれるからオーケンの作るものが好きだな、と改めて実感したりもしています。

okmusic.jp

意外にそういうことを考えている人って多くない気がするけど、こういう視点を持っているほうが、圧倒的に生きやすくなるし、人に対しても寛容であれるよな、と思う。

そういう意味で、前作「Future!」が普通に憧れる人間モドキたちのためのアルバムなら、今作は、正しいものは一つと信じている人に聴いてほしいな、と思うアルバムかもしれない。

なかなか、見つけてもらうのは難しいかもしれないけど。

でも!ほら!せっかくサブスク解禁されたのだから!
これを機に、布教がんばってみてもいいんじゃないか!?

…なかなか難しいよね、と自分でも思いつつ、一人でも多くの人に、さらに筋少ちゃんの音楽が聴かれていってくれたらいいなと思います。

 

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前回に続いて今回も夜中から朝にかけての深夜のラブレター状態になってしまった。

あとで何か気づいたら手を入れます。ひとまずおわり。

『凪のお暇』原画展@東京おかっぱちゃんハウス

練馬・上石神井にて2018/9/15(土)・16(日)2日間限定で催された『凪のお暇』原画展に行ってきました。
開催はなんとなく知ってはおり、家からもそう遠くないし、2日間限定だし…と軽い気持ちで行ったんですが、すごく楽しかったので感想をしたためておきます。

ちなみに一応書いておくと『凪のお暇』(コナリミサト)は、空気を読みすぎて疲れてしまったアラサー女子・凪ちゃんが一念発起して「お暇」をいただき、いろんな発見をしたり、幸せを感じたり、やっぱり悩んだりするお話です。

twitter.com

www.akitashoten.co.jp

とてもおもしろいので未読の人は読んでください(雑なリコメンド)

 

それでは、改めて原画展の感想です。

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会場の「東京おかっぱちゃんハウス」は、
西武新宿線上石神井駅から徒歩5分ほどの場所にある施設。

www.okappachan.com
広々とした古民家をカフェを備えたイベントスペースとして活用している、
おもしろいところでした。

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外観も中もすごく「家」

入口で観覧料とカフェ利用料を支払い、入場。
お家の中なので、もちろんここで靴を脱ぎます。

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お花は豆苗を卸している会社からだったようです

まずカラーのウェルカムボード的なイラストと、
その奥にどうにも懐かしさを刺激されて心の底がウズウズしちゃう作品が…。

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よく見ると案の定、小学生の頃のコナリ先生の作品とのことでした。

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懐かしい何かで心がざわつく

色とりどりの洗濯ばさみ(!)で留められた、ポストカード大の大量のラフめイラストたちの中にはわかるさん、オカヤイヅミさんなどのメッセージも。

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そして右を向けば、そこにはカラフルなフレームに収められた『凪のお暇』原画たちが…!

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ちなみにコレ、原稿用紙のコピーに鉛筆で描かれた下絵と、原稿用紙に描かれたペン入れ後の原画が並べて飾られており、さらにそれぞれコナリ先生の「このシーンはこういう演出にしたかった」「もともとはこうするつもりだったけどこう変更した」みたいなコメントが手書きで付けられていて、この趣向だけでも、原画が整然と並んでいる一般的な原画展とは異なり、「原画の細かいニュアンスに感動する」にもうひとつ楽しみ方がプラスされている感じがとても良かったです。

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それにしても、下絵が別の紙でそのまま残っているというのはどういう制作工程なんだ? 原稿用紙の下に下絵を敷いてトレースするのかな??

左手には、作画に使われている画材たちが。

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手書きのキャプションも

原画に添えられているコメントによると、ペン入れまでアナログで仕上げにデジタルをちょっと使われている感じ。
そのアナログの画材たちもほぼミリペン・筆ペンのみというシンプルさ。

広いスペースのほうに行くと、こちらにもたくさんの原画と下絵とイラスト、ネームなどなど…が、空間をフルに使って同様にたっぷり展示されています。

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手前左手にあるのはもちろん、あの凪の“相棒”の黄色い扇風機!

奥の床の間みたいなところには、『凪のお暇』読者にはおなじみのアイテム「豆苗」が堂々と、そして「おしぼりひよこ」「空き缶キャンドルホルダー」がちょこんと置かれている。

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人生でこんなに「豆苗」に親しみを抱いたことない

テーブル(ちゃぶ台)にはおきまりの感想ノートに加え、作中で凪が作った料理のレシピノート、そしてこれも凪たちが作っていた「毛糸のポンポン」の作り方と、実際に作れる毛糸たちが!

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私が行ったときは親子づれの方がふた組ほどいらっしゃったのですが、
ちびっこたちも興味津々な様子で微笑ましかった~。

いつまでも原画を見ていたい気持ちを抑えてカフェコーナーへ。
入場時にもらう引換券を渡して注文。レモネードにしました。
作中登場スイーツ、「パンの耳チョコ」付き。おいしい。

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来場特典のエコバッグとポストカードも合わせて記念撮影

私はカウンターのほうでいただいたんですが、手前には掘りごたつのスペースもあり、こちらでも親子連れのお客さんがくつろいでおられました。

そんな感じで堪能し、名残を惜しみつつ出口へ向かうと、特典ポストカードと並んで、なにやらオシャレげなフライヤーが…

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オシャレなことだけはわかる!

その名も「ゴン界隈製作 謎のフライヤー」!
基本情報がよくわからないことでおなじみの、あの!笑
QRコード読むとどこかにつながるみたいだったんですが、もらってくるのをうっかり忘れるという痛恨のミスを犯しました。くそう…

と、最後の最後まで楽しませてもらい、ようやく会場を後にしました。

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とにかく楽しさぎっしり!の展示イベントでありました。

作品の雰囲気にこれ以上ないくらいにぴったりの会場といい、上でも書きましたが原画の飾り方の工夫といい、とにかく「いま、ここでやるからこそ、来る価値がある」イベントだったな~と思います。

作中に登場したいろんなアイテムやメニューの再現や、ラフに、でもかわいくポップに展示されたちいさなイラストやネームたちにしても、作品の世界観をリアルに現出させることにこだわりが感じられて、単なる原画展ではなく『凪のお暇』という作品の小さなテーマパークのようでした。

たぶん今回のために描きおろしたイラストもたくさんあったんだろうし、いたるところに手書きコメントカードも置かれていたし、コナリ先生と企画運営スタッフのみなさんが楽しいイベントにするためにものすごいエネルギーを注いでくれた、それもワイワイ楽しくやってくれたのであろう感じが伝わってくる空間。

たった2日間だけなのに、だからこそなのか、とにかくサービスが盛りだくさんの「お祭り」という雰囲気。会場は静かでゆったりした一軒家ながら熱量がすごくて、その調和から生まれるあたたかい温度感がとても気持ちよかったです。

小さな会場での展示イベント、最近はすごく増えているけど、その大成功例のひとつなのではないかなと思いました。
いろんなマンガのこういうイベント行ってみたいし、やってみたいな。
楽しかった!

「谷川俊太郎 展」@東京オペラシティ アートギャラリー

東京オペラシティで開催中の「谷川俊太郎 展」に行ってきました。
とても面白かったし、いろんなことを考えたので、書き留めておきます。

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私が行った日は都築響一さんとのトークショーがあったこともあり、賑わってはいましたが、ベルトコンベア式にならざるを得ない種類の展示と違って自由に見て回れる形になっているので、窮屈な感じはありませんでした。

(ちなみにこのトークショーにも参加しました。現代詩をめぐる状況、SNS時代の詩の在り方、AIは詩だけは作れない…など、やわらかい雰囲気ながら示唆に富んだ楽しい時間でした)

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レポートにまとめる自信はないので…メモの一部


小山田圭吾×中村勇吾作品展示

場内は、一部を除いて/特定展示物の接写でなければ撮影OK。
展示と展示の間は、薄手の真っ白な布で仕切られています。

「ご挨拶」を経て、最初に入る暗い部屋は、上記の二人のコラボレーションで谷川さんの詩を表現した作品の展示室。
「かっぱ」などの言葉遊び系の谷川さんの詩が、一画面に一文字ずつ表示されて、同時にその字(音)を発する声がスピーカーから流れ、つなげて聞けば最終的にひとつの詩になっている。この形で、数編の詩を見て、聞きます。

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写真では伝えづらい

ぶっちゃけ音楽の印象がほとんどないんですが(環境音楽に近いものなのだと思うので、それもそれで正しいのではないかな)、とにかく、すごく根源的な視覚と聴覚でひとつながりの言葉たちを体感する感覚が、とてもとても面白かった。
まず、この時点でぐっと興味を惹かれました。


▼メイン展示「自己紹介」

続いて仕切り布をくぐると、そこには、巨大な平べったい直方体がたくさん立っています。ここが、メイン展示会場。

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不思議な圧を感じる

直方体たちの側面に、今回の展示のために書き下ろされた谷川さんの新作詩「自己紹介」が1行ずつ書かれていて、足を踏み入れた瞬間、この「自己紹介」という詩が、強弱をもって目に飛び込んできます。
この絵面だけでも結構びっくりする。

直方体はそれぞれ、「自己紹介」の、その側面に描かれている「行」に対応する谷川さん自身の暮らしや歴史をあらわすモノの、ちいさな展示室になっています。

「私は背の低い禿頭の老人です」の「行」には「ポートレイト」として等身大の写真が付され、「もう半世紀以上のあいだ」の「行」は「歴史」として、谷川さんが詩作に使われてきたツールの変遷の展示空間に、など。
(手書き原稿→ワープロ→PC。)

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鑑賞している人も含めて絵になっている感じ

現在谷川さんが使われているMacのWord上で、詩がつくられていく過程がそのまま展示されていたのもびっくり。
今は詩人だってPCなどで作品を書く。当たり前なのに、なんとなく「詩」「詩人」とPCって遠いイメージだったなー。

そして、反対側の側面には、谷川さん手書きの「ひとこと」がペタペタと貼られていて、それがとてもキュート。

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歴代のワープロ→PC、「ひとこと」の一例 

壁面に大きく掲示された谷川さん撮影の写真や、「自己紹介」の合間に立っているちいさな柱に載った「詩の本」にも、思わず見入ってしまう。

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そんなにものすごく広い空間ではないけれど、あっという間に小一時間経ってしまいました。

 

▼「自己紹介」の、あと

メイン展示室を出て、大きな白い薄布を隔てた向こうには、こちらも今回の書き下ろし新作詩「ではまた」が、二面の壁を使って書かれている。

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ただ詩が書かれているだけ、の部屋

その先にあるのは、長~~~~い谷川さんの年譜。
トークショーで話されていたが、東京オペラシティでの展示では、やたら長い年譜が掲示されることがままあるらしい)

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めっちゃ長い

そして最後に現れるのが、「谷川俊太郎から3.3の質問」。
3+1つの質問に対する16人の回答が、3つの大きなモニターと1つの小さなモニターに表示されていく。
阿川佐和子みうらじゅん浅野いにお最果タヒ又吉直樹、そしてSiri(!)…などなど、いろんなジャンルの回答者の答えは、姿勢も表現も自由で多様で興味深かったです。

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これもふしぎな絵面

展示は以上。
じっくりと詩を味わいながらゆっくり回って、約2時間。
ぜいたくな時間でした。

 

▼考えたこと:なぜ谷川さんの詩が好きなのか

以下は、展示を見ながらとか、見たあととかに、考えたことです。

谷川俊太郎さんの詩を、そうと初めて認識したのは、たぶん中学生のときでした。
国語の教科書に載っていた「三つのイメージ」に、なんだか強い感銘を受けて、この詩をルーズリーフに書き写して持ち歩いたうえに、授業の一環として(なんの授業だったんだろう、いま思えば)書いた「20歳の自分に宛てた手紙」に同封していました。
それは人生で最初の「詩人」と呼ばれる人との出会いであり、「詩」というものの面白さを感じた経験であった気がします。

国語の教科書というのはありがたいもので、その後も必ずいくつかの詩歌が載っていたので、著名な詩人の作品に触れる機会は教科書からもらえたわけですが、その中で「好き、ほかの作品もたくさん見てみたい」と思ったのは谷川さんだけでした。

なぜ谷川さんの詩に私が惹かれたのか。
もちろん、東京オペラシティで展覧会が催されるほどの国民的人気を持つ人なわけだから、大きな理由なんてなくて、単に「たくさんの人の心に響きやすい詩だから」かもしれないけれども、今回の展示とトークショーを経て、なんとなく、その理由の片鱗をつかんだ気がしました。

谷川さんは場内のメモ書きに、「抽象より具体が好き」と書いた。
とかく芸術分野って、抽象的なものこそが高等で、素晴らしくて、理解できる一握りの優秀な人間のためにあるのだ、みたいな空気を感じることがあります。
そんなとき私は、自分が「そういうものが理解できない、ピンとこない、素晴らしいと思えない、賢くも優秀でもないただのオタク気質の人間」であることを実感する気がして、勝手にモヤモヤしたりします。

だけど、平易でわかりやすい言葉で、しかも多彩な形式で、自由に、でもすごく深遠な、その少ない言葉には表出しないたくさんの想いとかを含んでいる谷川さんの詩は、私は、とても好きだと感じる。

そのことに、「ああ、それでいいんだな」と思えた。
抽象ではなく具体で、でも、その言葉の表層にとどまらないたくさんの情報を持っている、そういう表現が私は好きなんだな、だから私は谷川さんの詩に惹かれるのかなと、なにか、安心できました。

 

▼考えたこと:自分の好きな表現について

同時に今回感じたのは、私はおそらく、そういう、「言葉以上のものを含んでいたり、言葉以上のものに拡がっていく言葉」という表現が好きなんじゃないかな、ということ。

どの展示も、詩という「言葉」を、言葉を使わない方法(リアルな物質だったり、映像と音声だったり、写真だったり)で表現しようとしている様子がすごくエキサイティングに感じてテンションが上がったのは、つまりそういうことに興奮する性質なのではないかなと。

それは、私がマンガという表現が好きなことや、いくつかのミュージシャンの音楽がすごく好きなことにも通じることのような気がしました。
マンガって、「絵」から入る、見る見方ももちろんあるけど、私はあまり「絵」から入ることってなくて(あまり「絵」そのものに対する関心が強くない)、改めて思い返すと、台詞だったりモノローグだったり、そしてそれらが「無い」コマやページだったり、というものを読み込んで解釈することを、私は好んでいる気がします。

少し前までは、私は「物語」が好きで、マンガも音楽も「物語」のひとつの類型として好きなんじゃないかなと思っていたんですが(これは小沢健二が「バズリズム」に出演したときに語っていたことに「あっ」と思って考えていたことだった)、「物語」というより「言葉」が、私の「好き」のコアなのかもしれないなと思いました。

そういえば昔、水戸さんも、「音楽は言葉を言葉以上にしてくれる」とブログで書いていたことがあったっけな。

地球日記:2012年09月03日

そんなことにまで思いを及ばせてもらった「谷川俊太郎 展」。
谷川さんに関心がある人、詩に、言葉に関心がある人には、絶対オススメです。

そうそう、図録(?)の「こんにちは」もとても良かった。
Amazonでも買えますが、会場で買うと、レシートに谷川さんのひとことが付いてきます。

行ける人は会場へ、ぜひ! 

3月25日までの開催です。

谷川俊太郎展|東京オペラシティアートギャラリー

 

2017年を振り返る【マンガ編】

ダラダラしていたら1月も末ですが、今年もまとめておきます。
#俺マン2017 に上げた作品について、個別感想。

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阿部共実『月曜日の友達』

話題作だし、あえて語ることもないという感じですが。
個人的に『大好きが虫はタダシくんの』『空が灰色だから』のインパクトがいろんな意味ですごくて、その後の作品をあまりきちんと追っていなかったんですが、久々に手に取ってみたら思いもよらない方向に進化したというか、裾野を広げていた感があって非常に驚きました。マンガ表現の可能性のひとつが追求されている作品に思えます。

 

売野機子ルポルタージュ』 

売野先生、2017年に出た短編集2点も相変わらずとても良かったですが、「恋愛」そのものをテーマにした近未来SFである本作は、なんとなく新境地っぽい感じがあって注目していました。性とは、愛とは、という問いにも触れながら、抑制された空気の中で静かに静かに進んでいくストーリーの緊張感が心地いい。
連載の継続についてはいろいろあったようですが、移籍の方向で固まったようで良かったです。今後の展開が楽しみ。

 

紀伊カンナ『春風のエトランゼ』

去年は『雪の下のクオリア』を選んでいるんですが、今年も結局このシリーズを選んでしまった。
とにかく綺麗でかわいくて愛おしい時間が流れている作品ですが、「家族とは?」という問いに踏み込んだ最新刊には驚かされました。これから、物語はどんなふうに進んでいくのだろう。
BLコーナー以外の売り場でも展開されていい作品だろうなあ、と思いながら読んでいます。
飯田橋でやってた展示も良かった。

 

石黒正数それでも町は廻っている

祝完結枠というか、お疲れさまでした、ありがとう!の気持ちを込めて。
ミステリ仕立ての作劇、随所に当たり前のように入り込む「すこしふしぎ」な要素、高校生という二度とは来ない時間をいろんな経験を通じて成長・変化しながら毎日を生きる歩鳥たちの生活。それらがすっかり混ざり合った、本当にふしぎですてきで、唯一無二のマンガだったなあ。ずっと大好きです、たぶん。

 

岡田卓也『ワニ男爵』

店頭でたまたま気になって手に取った作品でしたが、これまでに読んだことのない種類の奇妙な読み味が非常にクセになります。
いわゆるグルメマンガっぽい大仰な味の表現は興味深くもそれ自体がギャグ的であり、しかもそれを吟味するのが何故かワニの紳士という設定がもうわけがわからない。そのくせ「シュールなグルメコメディ」で片づけるには妙に抒情的で、なんというか、本当に、不思議な作風です…。好き。

 

入江喜和『たそがれたかこ』

こちらも「おつかれさまでした」枠でもありつつ、完結まで見守れて本当に良かった、良かったね、おたかさん!という気持ちで。
終盤の流れには「そうだったのか!」と驚かされつつも、全10巻を通じて、たかこさんたちの生き様から、いろんなことを学ばせてもらったなあという気がしています。
完結記念のトークライブでも濃い話が聞けてとても楽しかった。

 

 

■川路智代『ほとんど路上生活』

単行本化はまだ先になりそうですが、これは2017しんどいコミックエッセイ大賞だったかもしれないし、2018大賞になりかもしれない。推しておきたいです。川路智代さん。

手塚作品のパロディから出発してまさかの公式作家になったつのがいさんとの同居生活の様子も気になりますが、作品のほうもなかなかとんでもない。
コミックエッセイのレーベルでの連載なので、もちろん実体験がベースなわけですが、なにせ、内容がハードです。この独特の、シンプルでコミカルなんだけどちょっとおかしい、緊張感のあるテンポ、リズム、描線で描かれているから余計にドキドキする。

掲載媒体であるエブリスタ「コココミ」では、ほかに『ねこのとらじの長い一日』『まめしばコ!~の、いっしょう~』『魔夜の娘はお腐り申し上げて』なんかも楽しみに読んでいます(した)。注目しているwebメディアです。

 

■ヨコイエミ『カフェでカフィを』

Twitterで話題になっていたので気になって読んだ作品。
コーヒーをテーマにした小品集、という形式の作品はいくつか思い当たるけれど、それらが短編映画のような種類の完成度を持っていることが多いのに対して、この作品はマンガという形式に対する実験の要素が垣間見えて面白い。
イラストレーション的な洒落た画風だし、発表媒体がメジャーな女性誌ですが、マンガマニア的に興味をそそられる作品でした。

 

雨瀬シオリ『ここは今から倫理です。』

不思議なタイトルに惹かれて手に取った。「倫理の先生」を主人公/狂言回しに据えた教師ものという、とてもユニークな作品です。
教員と生徒のドラマとしてシンプルにグッとくるものがあるし、各話の構成もいろいろ工夫されていて面白い。先生のキャラクターも気になります。
倫理の授業、私も好きだったなあ。

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2017年、個人的にはあまり新しいものにバランスよく目を配れなかった年でした。
今年はもっとアンテナを尖らせていきたいな。

 

://twitter.com/fum_sz/status/947458187191468032

2017年を振り返る【ライブ編】

うっかり新しい沼にはまりかけたりしている間に大晦日になってしまった。
結局今年もあんまり更新できなかったなあ…

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1/3(火)大槻ケンヂオーケンのほほん学校~正月だよ全員集合2017!~」ゲスト:水戸華之介・和嶋慎治・吉田悠軌@新宿LOFT PLUS ONE
1/20(金)大槻ケンヂ名曲喫茶オーケン」ゲスト:高橋竜阿佐ヶ谷LOFT A

2/6(月)大槻ケンヂ大槻ケンヂBIRTHDAY LIVE! これからはこんな音楽もやっていきたいな。」@吉祥寺Star Pine's Cafe
2/12(日)内田雄一郎「SWITCHED ON KING-SHOW」発売記念インストアイベント@TOWER RECORDS 錦糸町

3/1(水)筋肉少女帯「ハイストレンジネス・チケットメンバーズ」発足イベント@LOFT9 Shibuya
3/12(日)筋肉少女帯「『猫のテブクロ』完全再現+11(大阪版)LIVE」@心斎橋BIG CAT
3/18(土)筋肉少女帯「『猫のテブクロ』完全再現+11(恵比寿版)LIVE」@恵比寿LIQUID ROOM
3/19(日)人間椅子「ライブ盤リリース記念ワンマンツアー『威風堂々』」@青森Quarter
3/20(月)筋肉少女帯「『猫のテブクロ』完全再現+11(赤坂版)LIVE」@赤坂BLITZ

4/1(土)水戸華之介「20×5=100 LIVE」ゲスト:澄田健@渋谷 七面鳥
4/8(土)大槻ケンヂ「2017弾き語りツアー『いつか春の日のどっかの町へ」ゲスト:本城聡章@徳島 寅家
4/16(日)大槻ケンヂオーケンのほほん学校」ゲスト:NARASAKI三柴理、 RIKIJI
4/26(水)竜理長「高橋竜バースデイライブ!with 三柴理長谷川浩二」@高円寺JIROKICHI
4/30(日)Paul McCartney「ONE ON ONE JAPAN TOUR 2017」@東京ドーム

5/3(水)Foo-Shah-Zoo/Voo Doo Hawaiians「GWだよ!フーシャーショー」@下北沢CLUB251
5/20(土)筋肉少女帯筋少シングル盤大戦!」@恵比寿LIQUID ROOM
5/26(金)THE MANJI「THE MANJI久々のワンマンライブ~MANJIのロックファイヤー~」ゲスト:ドクター田中@渋谷duo MUSIC EXCHANGE
5/27(土)水戸華之介「不死鳥~十四牌~」@SHIBUYA TSUTAYA O-WEST

6/4(日)ロリケン(大槻ケンヂROLLY)「ニクオン2017」@錦糸公演

7/2(日)特撮「0’年代の特撮3TITLES復活ツアー!『オムライザー』『夏盤』『綿いっぱいの愛を!』」@新宿LOFT
7/5(水)特撮「0’年代の特撮3TITLES復活ツアー!『オムライザー』『夏盤』『綿いっぱいの愛を!』」@恵比寿LIQUID ROOM
7/9(日)水戸華之介&3-10chain「不死鳥外伝 輪の章~新アルバム発売記念ツアー」@下北沢CLUB Que

9/2(土)筋肉少女帯ほか「OTODAMA~音泉魂~’17」@泉大津フェニックス
9/3(日)橘高文彦本城聡章「club DREAM CASTLE 本城聡章Birthday Party & Unplugged Live at 東名阪~あの2匹が帰ってくる!?~」@心斎橋Percasso
9/17(日)橘高文彦本城聡章「club DREAM CASTLE 本城聡章Birthday Party & Unplugged Live at 東名阪~あの2匹が帰ってくる!?~」@渋谷CASA ASTEION
9/17(日)杉本恭一/MAGUMI/水戸華之介「熊本復興支援チャリティーイベント【KU・MA・MO・TO】トーク&アコースティック」@下北沢CLUB251
9/18(月)杉本恭一/MAGUMI AND THE BREATHLESS/水戸華之介&3-10chain「熊本復興支援チャリティーイベント【KU・MA・MO・TO】バンドライブ」@下北沢CLUB251
9/22(金)竜理長「竜理長、腕を振るう!」@高円寺JIROKICHI

10/21(土)水戸華之介「ウタノコリ」@新大久保R'sアートコート
10/29(日)大槻ケンヂオーケンののほほん学校高円寺編!」ゲスト:内田雄一郎橘高文彦本城聡章綾小路翔座・高円寺

11/11(土)筋肉少女帯「一本指立ててFuture!と叫べ!ツアー」@名古屋CLUB QUATTRO
11/16(木)筋肉少女帯「一本指立ててFuture!と叫べ!ツアー」@EX THEATER ROPPONGI
11/19(日)人間椅子「異次元からの咆哮」@Zepp Divercity Tokyo
11/25(土)筋肉少女帯「一本指立ててFuture!と叫べ!ツアー」@心斎橋BIG CAT

12/9(土)MAGUMI AND THE BREATHLESS/水戸華之介&3-10chain「年末恒例 P-ROCKだよ全員集合!! 2017年末尾を飾るポコチンロック2大スター(笑)夢の共演ツアー」@下北沢CLUB251
12/10(日)筋肉少女帯「一本指立ててFuture!と叫べ!ツアー」@マイナビBLITZ赤坂
12/23(土)筋肉少女帯@恵比寿LIQUID ROOM

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計37本。減りました。

さて、以下は印象深かったものをピックアップ。

 

■3/12(日)筋肉少女帯「『猫のテブクロ』完全再現+11(大阪版)LIVE」@心斎橋BIG CAT
■3/18(土)筋肉少女帯「『猫のテブクロ』完全再現+11(恵比寿版)LIVE」@恵比寿LIQUID ROOM
■3/20(月)筋肉少女帯「『猫のテブクロ』完全再現+11(赤坂版)LIVE」@赤坂BLITZ

大阪の感想を↓で書きました。

banbutsuluten.hatenablog.com
筋少2017年最初のワンマン、時期は例年通りの3月ながら、アルバム再現+αを明確に謳ってのライブという初めての企画でした。
これに先駆けてファンクラブ(のようなもの、と最初は言っていたが、最近は普通にFC扱いされている)「ハイストレンジネス・チケットメンバーズ」が設立され、このツアー以降、FCメンバーにはオリジナルデザインのピクチャーチケットが毎回作られるようになりました。感激したなー。
ライブ自体も、↑の感想で書いてもいる通り、すごく特別なツアーだったように思いました。それは、後に新譜「Future!」への布石になったという意味でも。

https://www.instagram.com/p/BR3QEfGA5Al/

猫テツアーファイナル、ほんとうに、ほんとうに、最高、でした…筋少からは離れられないなあ、と改めて実感したツアーだった

ちなみに恵比寿と赤坂の中日に椅子の青森公演があり、3日間で東京→青森→東京というエクストリーム移動をしました。3月の青森はもちろんまだまだ寒かった…。


■4/8(土)大槻ケンヂ「2017弾き語りツアー『いつか春の日のどっかの町へ』」ゲスト:本城聡章@徳島 寅家

オーケンがようやくソロライブのゲストにおいちゃんを呼んでくれたと思ったら徳島。まさかの徳島。試されるおいちゃんファン。行きましたとも。行きましたとも!!

https://www.instagram.com/p/BSmlqKKg94y/

2年ぶり4度目の四国上陸であります

徳島市街にプライベートで行ったのは初めて。
(一昨年、椅子の高松公演のついでに祖谷のほうにちょっとだけ行ってはいた)
おいちゃんがいろいろ美味しいものを教えてくださったので笑、それを忠実に拾っていく旅でした。
あたりやさんの大判焼きが本当に美味しかった…。

https://www.instagram.com/p/BSpefHpAA6i/

そしてもちろんいただきました、大判焼き

会場「寅家」さんは徳島市街でアコースティック系のハコといえばここ、みたいなところのようで。なかなか個性的なところで、その後オーケンもたびたびその個性をイベントで話していたけれど、でも、雰囲気はいいハコでした。
当日天候が不安定で、私は幸運にも問題なく参戦できたんですが、土壇場で行けなくなったり遅れてしまった方もいらした。


■4/30(日)Paul McCartney「ONE ON ONE JAPAN TOUR 2017」@東京ドーム

https://www.instagram.com/p/BTgEOhcgC4c/

な、う! #ポール来日 #paulmccartney #oneonone

前に生ポールを観たのは2013年。

banbutsuluten.hatenablog.com3年半ぶりのポール、相変わらずその辞書に老けるという文字はなく、水もろくに飲まずのぶっ通しパフォーマンス、素晴らしかったです。
初めての生ポールにいろいろ感極まってしまった前回と違って、100%全身で楽しめたなーと思います。ありがとう、ポール。また来てね。


■9/2(土)筋肉少女帯ほか「OTODAMA~音泉魂~’17」@泉大津フェニックス

https://www.instagram.com/p/BYhbfYaALEL/

入場している! 2年ぶりOTODAMA!

こちらもお久しぶりのOTODAMA。今年のテーマはスーパーマーケット。「音泉=温泉」というだけですでにコンセプトが1つあるうえにテーマを掲げる屋上屋感がギトギトしてて最高でした。オシャレじゃないフェス、イイネ!

これに先立つ8月5日、私は行かなかったhideさんトリビュートフェス「MIX LEMONeD JELLY」にて、筋少の新譜が発売になること、そしてそのタイトル「Future!」が発表されていました。そして、オーケンソロライブなどで、その新譜に収録の新曲「サイコキラーズ・ラブ」が披露されていました。
そちらも不参加だった私はこのOTODAMAで、9月の晴れた野外でこの曲を、初めて聴いたのでした。
あのときの感覚は、忘れられないな。

その後ドリキャスで、おいちゃん歌唱によるギターズ版「サイコキラーズ・ラブ」も聴いたわけですが、(それはそれで、もちろん素敵なんだけど)こればっかりは「オーケンが歌う」ことが特別な意味を持つ楽曲があるということを、まざまざ感じずにはいられなかったなあ。

あと、OTODAMAではフードエリアに出店していた旧ヤム邸さんのカレーがめちゃめちゃンマかった…。また食べたいなー


■9/17(日)杉本恭一/MAGUMI/水戸華之介「熊本復興支援チャリティーイベント【KU・MA・MO・TO】トーク&アコースティック」@下北沢CLUB251

■9/18(月)杉本恭一/MAGUMI AND THE BREATHLESS/水戸華之介&3-10chain「熊本復興支援チャリティーイベント【KU・MA・MO・TO】バンドライブ」@下北沢CLUB251

震災被害に遭った熊本の復興支援のため、熊本出身のMAGUMIさんと恭一さんが企画した2daysチャリティーイベント。
椅子遠征とあわせて熊本城を見に行ったのは2014年だった。おふたりの盟友であるわれらが水戸さんも参加ということで、熊本の助けになれればなという気持ちもあり、通しで参加しました。
青森放送の橋本さんがMCでいらっしゃった初日はほぼワラッターイベントと化し、頭と腹筋がおかしくなるかと思うほど笑い倒しました。間違いなく今年一番笑った。出るとは思わなかったうっちーのゲスト出演も嬉しかった。

https://www.instagram.com/p/BZJHdtKAiFI/

熊本イベント初日、笑い過ぎて死ぬかと思ったwwwwww

https://www.instagram.com/p/BZJaE4QgmnF/

夢のお城🏰パーティーからの熊本🏯復興イベントという振れ幅の異常なダブルヘッダー心の底から楽しかったです情報量が多すぎる長い一日だった…喉と横隔膜と腹筋が試された


■9/22(金)竜理長「竜理長、腕を振るう!」@高円寺JIROKICHI

春の竜ちゃんバースデーライブにて結成の運びとなった竜理長、バンド名を名乗ってのファーストライブ。平日、職場から馳せ参じたのでちょっとだけ遅刻だったんですが、それが心底悔やまれた、とってもとっても良いライブでした…。
竜ちゃんはもともとビートルズ好きでプログレバンドもやってて特撮のプログレみを支えた1人でもあり、その竜ちゃんがエディと長谷川さんと一緒にやるといえば、気に入らないはずはないんですが、このライブで「ああ、竜ちゃんの音楽が私は好きなんだなあ…」と改めて実感しました。
初披露された新曲「夜もがく」に脳から汁が出ました。音源化してくれて本当に嬉しかった。

https://www.instagram.com/p/BZWDhEpgU9a/

竜理長、最高オブ最高すぎて最高だった……!来れてよかった( ;∀;)


■11/11(土)筋肉少女帯「一本指立ててFuture!と叫べ!ツアー」@名古屋CLUB QUATTRO

■11/16(木)筋肉少女帯「一本指立ててFuture!と叫べ!ツアー」@EX THEATER ROPPONGI
■11/25(土)筋肉少女帯「一本指立ててFuture!と叫べ!ツアー」@心斎橋BIG CAT
■12/10(日)筋肉少女帯「一本指立ててFuture!と叫べ!ツアー」@マイナビBLITZ赤坂

10月25日、「Future!」発売。
それは、言ってしまえば、それまでの10ヶ月間をすべて塗り替えて、そのまま=2017年の印象になってしまうような、ある意味トラウマになるような、そんなアルバムでした。

banbutsuluten.hatenablog.com聴いた直後、受けた衝撃と止まらない思考を吐き出したくてとりあえず一度書き留めてはおいたわけですが、正直、いまだに、このアルバムについて、ひいては筋少について、ずっと考え続けています。

(年内にもう一度まとめたかったんですが…ちょっと…冒頭で書いた通りこのタイミングで想定外の新しい沼にハマりかけていて…無理でした…オタクってたのしいね…閑話休題

そんな思考の渦を巻き起こす音源である反面、リリースツアーはただただひたすらに楽しい空間で、そのギャップも不思議な感覚でした。
たぶん、このアルバムをきっかけに、しばらく、もしかしたらずっと、私は筋少について考え続けるのかもしれないなあ。

https://www.instagram.com/p/BbXCnRdgcYM/

一本指立ててFuture!と気持ちよく叫びました!本当に本当にたのしかった!🍻

https://www.instagram.com/p/BchUz2cgZMJ/

貼り紙などを撮り逃したので映えるやつでひとつ…Future!ツアーファイナル赤坂、最高でした!来たるべきデビュー30周年イヤーという名の未来、楽しみだ!!👆

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そう、来年は筋少デビュー30周年イヤー。
ライブ参戦率は少しずつ下がりつつはありますが、筋少だけはずっと特別だから、来年もきっと、忙しくて楽しいキラキラした特別ないちにちが、たくさんあるんだろうなと思っています。
楽しみです。

「Future!」(筋肉少女帯)―「普通」に憧れる誰かに捧ぐ

筋肉少女帯18枚目のオリジナルアルバムにして、「最後の聖戦」以来20年ぶりのオリジナル曲のみで構成されたアルバム、「Future!」が発売になりました。
個人的にだいぶ衝撃的な1枚だったので、
感想と、勢いでいろいろ考えたことを書き殴っておきたいと思います。

Future! (初回限定盤A)

Future! (初回限定盤A)

 
▼1曲ごとの感想

1.オーケントレイン

1曲目は、過去にとらわれるな、未来へ進もう!という曲。
足を引っ張っているのは過去の自分なんだよ、という曲。

過去に執着している不安で不安でしかたない我々を列車に乗せ、恐ろしい記憶の森から連れ出してくれるオーケン
それでも運命共同体的な押し付けがましさはなく、途中下車する人を引き留めはしない、ある意味でドライなところが「らしい」と思います。
ファンキーなリズム、明るくて元気がよくて、なんというか、やけくそなんだけど、健康的なやけくそさ…みたいな印象。アルバムのオープニング、そして「出発!」ということで「レティクル座行超特急」を連想するけれど、列車が向かう先が妄想と電波うずまく世界だったあのときとは、ベクトルがはっきりと異なる。
かといってただ無邪気に前向きなわけでも決してなく、そこには確実に、「いずれ死を迎える」という現実が、厳然としてある。筋少的な、オーケン的な、前の向き方。 

 

2.ディオネア・フューチャー

非常に肉体的な、官能的なところすらある歌詞であると思います。
それは、「官能植物」にインスパイアされたという、ジャケ写のディオネア=ハエトリソウからのイメージかもしれない。

官能植物

官能植物

 

前向きでマッチョな「メッセージ」と、それを素直に受け入れられず、抗おうとする声の応酬。過去にとらわれて前に進めない誰かなのだろう。
やがて抗うのをやめて、ディオネアの中に溶けていく、その先は果たして未来なのか?
つまりやっぱり未来は死で、永遠で、来世なのか。

作曲はおいちゃん。「オーケントレイン」もそうだけど、これは特に、おいちゃんの楽曲としては新機軸だなあと感じる。
インタビューによると、これと「サイコキラーズ・ラブ」は前作「おまけのいちにち(闘いの日々)」の候補曲だったという。
スランプの時期があったと確か言われていたと思うけど、それを経て、「おまけのいちにち」以降、おいちゃんは何というか、ひとつ違うステップに移った感があるような気がします。

 

3.人から箱男


筋肉少女帯「人から箱男(筋少×カラオケDAMコラボ曲)」(short ver.) 2016年10月26日(水)発売

唯一の既発曲。ここに挟まってて違和感がないのは、前へ前へと向かおうとするエネルギー感がアルバムにハマっているからなんだろうな。コンパクトに筋少ハードロックをやっている感じだけど、作ったのがおいちゃんというところがミソ。橘高メタルとはやっぱりちょっと違う。面白いです。

 

4.サイコキラーズ・ラブ

愛し合うとかわからない、人の痛みを感じない。やさしさとかはわからない。さびしさだけはわかる。そんなサイコキラーふたりのラブソング。

個人的に、これは「告白」にも通じるところなんですが、自分の性格が人より冷たい、ドライであるという自覚があって、それによる劣等感もすごくありまして。
サイコキラーズ・ラブ」を聴いたときに泣いてしまうのは、猫とか犬とか手にかけるようなことはもちろんしないけれど、そういうところにすごく共感してしまうから。

アコースティックで通せば、ある意味で歌詞の悲しい美しさと非常に整合性が取れるのに、後半からピアノとギターの音色、刻まれる静かなリズム、コーラス、畳みかけるサビ、そしてハンズクラップ!
ここまでポップでかつ落ち着いていて美しい曲は本当に筋少でも随一で、これにこの詞が乗っているのが、もう、本当に、筋少でしかないなと思います。リリース前に繰り返し披露されたのも、「これは筋少しかできない」という確固たる自信のあらわれだったのだろうな。

ずっと一緒に生きていこうと思える相手がいるなんて、それはもう愛なんじゃないだろうか。
この2人は、とても幸せなんじゃないだろうか。
愛とか恋とか、わかんないけどさ。

 

5.ハニートラップの恋

今回のアルバムでは救いになる軽さ…と感じました。ザ・内田GS。
冷静に考えれば十分何だこれはソングなんだが、ほかの曲がパンチがありすぎて、
箸休め的な印象。それがちょうどいいです。「生まれかわれたら普通に恋したい」というのが、アルバムのテーマに絡むところかな。

 

6.3歳の花嫁

メメント・モリな、死を思うオーケンのストーリーソングはいくつもあったけれど、ここで歌われている「死」はとても生々しい。
ひとフレーズひとフレーズがグッサグサに刺さって、何度聴いても泣いてしまう。

明るくポップな曲調に悲しい、切ないストーリーという取り合わせはある意味で定番の、ベタなやり方ではあるんだろうけど、普通のバンドはやんないよコレ、というワードのチョイスや音の使い方がキレッキレに冴えていると思います。
アンパンマンQUEEN、そして「永遠も半ばを過ぎて」と、引用もピリッと効いている。

ところでこの歌詞、身近に小さい女の子がいると想像しちゃいませんか。
つい姪っ子のことを考えながら聴いてしまうんだよなあ…。

 

7.エニグマ


筋肉少女帯「エニグマ」MV  (2017年10月25日発売AL『Future!』収録)

意味があるようでないような言葉の羅列、気がふれたようなオーケンの歌い方、展開に次ぐ展開、転調、変拍子
一発録りと知り驚いたが、たしかに、逆にライブに近い形じゃないと録りづらい曲なのかもしれないなあと思った。
これ、MVが公開されたときはちょーーーやべええええってなったんですが、アルバム通して聴くと、なんというか…アルバム自体のインパクトがものすごくて、結果的にこの曲のインパクトは少し中和された。
思いっきりプログレかつハードでテクニカルな演奏、そして謎の歌詞と語り。
いまの筋少の代表曲を1つ挙げるとしたらこれが良いのでは、という曲になっている気がしました。これがピンと来るかどうかが、一種のリトマス試験紙みたいな。

 

8.告白

アルバム随一の(…っていうのがいっぱいある気はしつつ)衝撃を与える1曲。
うっちーは飛び道具ポジションではあるけれど、今回はもう、道具の飛び方が半端じゃないですね。内田流80年代テクノポップヒカシュー感もある。

その曲に乗せて語られる、ある男の心情吐露。「普通」ではない自覚を持ちながらどうにか「普通」の人に合わせて生きている、「普通」であることに焦がれる心。
個人的に、やはりここでも、ひとつひとつのフレーズにすごく共感してしまう。

そして、
けれども君のことだけは 大好きだよと言えば いかにもな歌にもなるし 君もうれしいだろう
これが、ものすごく鋭い自己批判だと思っていて、だって今までの筋少はこういう歌を歌ってきている。(「人間嫌いの歌」とかね)
ここに「告白」というタイトルの真意が見えるような気もするし、「ついに言ったね」みたいな感すらある。

 

9.奇術師

今回のアルバムはとにかく橘高さんの色が薄まったなぁと思っているんですが、ここで泣きのギターインストという形で橘高イズムが全開になっているのが、ちょうどいいバランスなんだろうな気がしました。筋少としたらある意味新しい。
「告白」と「奇術師」が、アルバムの両極であると同時に、筋少の音楽の端と端かもしれないな、と思いました。並べて配置されているのがまたおかしい。

 

10.わけあり物件

こちらは、「ハニートラップの恋」と同じ「安心枠」。クライアントありきのタイアップ曲だったということもあり、「おわかりいただけるだろうか」にも通じるオカルト路線。最後から2曲目という位置に収まっているのも含めて、ホッとさせてくれます。ホッとするような歌じゃないのにね。笑

 

11.T2(タチムカウver.2)

こじらせたルサンチマンの歌だった「タチムカウ~狂い咲く人間の証明~」が、20年を経て、ものすごくエネルギッシュで健康的な歌に生まれ変わりました。
もちろん原曲を踏まえてか、「やつら俺ら見下してる」という歌詞が入ってはいるものの、そこに大してこだわっていない感じがすごくいいなと思います。

リリース前に聴いたときは、おいちゃん曲かな?と思っていたけれど、橘高さん曲。なんとなく、こういう曲も作るんだ!という発見というか驚きがちょっとありました。でも、結構橘高さんて作る曲にバリエーションあるよね。「別の星の物語り」とかもあるし。

しかし、インストの「奇術師」、軽めの「わけあり物件」、そしてやや異色な「T2」で、今回、本当に、つくづく「THE・橘高メタル」な色が薄い。

私も「タチムカウ~狂い咲く人間の証明~」を大事に大事にしてきた1人ですが、入江選手と一緒に、自分の中のその位置に、この曲を置き換えたいと思っている。
結論は、タチムカウ。異議なし!

▼まとめ

今回のアルバム、今までの筋少の音源とはハッキリと異なる印象があって、その正体は何だろうか?といろいろ考えていました。

で、まずひとつ大きいのは、「過去の記憶への執着こそが苦しみの根源なのだから、それはもう絶って、未来に向かおう。そして、その『未来』は、どんな精神的マイノリティにも用意されている」というメッセージが前面に打ち出されていることではないかな、という考えに至りました。

筋少においてアルバムごとの世界観やテーマを考え、提案する役割を担っているのは作詞者でもあるオーケンなわけですが、これまでのアルバムで、その「テーマ」が、オーディエンスに向けた「メッセージ」であったことって、なかったんじゃないかと思うんです。

(強いて言えば、エキセントリックな感情を持つ少女たちに向けて詞を書いたという「エリーゼのために」には少しだけ近いかもしれない。『筋肉少女帯自伝』より)

あえて断言しますが、筋少のことが好きで好きでしょうがないような人は、たいてい何かしら「うまくやれない」劣等感、人としてまともじゃないような欠落感を抱いていると思います。多かれ少なかれ。
サイコキラーズ・ラブ」や「告白」で歌われているようなことじゃなかったとしても、何かしら、世の中に対してズレとか、ままならなさを感じている。自分が「人間モドキ」なのではないかという不安、もしくは確信を抱いて生きている。
そういう意味でさらに断言しますが、やっぱりオーケンは、そんな私たちにとって
「この人あたしをわかってる、あたしの心を歌ってる」存在であり続けるんです。
そんな私たちに向けて、はっきりと「未来へ向かおうぜ、乗せてってやるから。向かう先は死かもしれないけれど」と歌ってくれたことの新しさ。
これがまずひとつ。

次に、冒頭から提示される、その「執着が苦しみの根源である」という結論
筋少と特撮の両方を追っている人であれば、「Future!」というアルバムタイトル、そして「オーケントレイン」の苦しみの根源は執着ですという語りからは、2016年2月にリリースされた特撮のアルバム「ウインカー」に収録の「荒井田メルの上昇」を想起せざるをえないわけです。

荒井田メルの上昇

荒井田メルの上昇

  • 特撮
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

www.utamap.com少女・荒井田メルが、バイク事故を経て突然「ザ・フューチャー」を名乗り、「執着が我らの苦しみ、根源」であり、「恋するパワーだけが未来を生き抜ける根拠」であると語り出す。
「ウインカー」というアルバム自体には、大きなメッセージ性みたいなものは与えられていないように思うけれど、この時期にオーケンはこういう「結論」を得ていたのかな、なんてことを考えます。
「踊るダメ人間」とか、「戦え!何を!?人生を!」とか、「銀輪部隊」とか、あるいは特撮のいくつかのアジテーションソングや「さよなら絶望先生」絡みの楽曲とかで、オーケンはたびたび「それでも生きていかざるを得ない」苦しみを歌ってきているけれど、そこにはいつも「自分を追い立てる何か」や「自分をないがしろにする誰か」のような「敵」がいた。
「おまけのいちにち(闘いの日々)」の「時は来た」で歌われる敵はどこ? 敵は誰? 最初にわかっとけというフレーズに、私は「本当は存在しないかもしれない敵に、ひとりで立ち向かっている様の滑稽さ」が歌われていると思っていたんですが、それがついに「敵は過去や思い出に執着する自分自身なんだよ」という結論をはっきり提示する形に変わったんだなあ、と思いました。
これがふたつめ。

(ところで、個人的に、特撮の「パナギアの恩恵」と筋少の「おまけのいちにち(闘いの日々)」、特撮の「ウインカー」と筋少の「Future!」の、聴いたときの印象がとても近かったです。前者には「変わりつつあるなにかへの戸惑い」を、後者には「進化への感動」を覚えた、という点で)

そして、オリジナルメンバーである我らが内田雄一郎氏の存在感の大きさ
前作「おまけのいちにち」の時点で内田さんは「時は来た」「S5040」「夕焼け原風景」の3曲を提供していて、近年の作品には珍しく、かなりアルバムにおいて存在感を持ってはいた。それが、「おまけのいちにち」を一風変わった作品にしていた要素ではあると思うんですが、この3曲はどれも比較的長尺で重めの曲という意味で共通していて、しかもアルバム終盤にまとまって置かれていたので、「んっ!?」みたいな驚きはあまりなかったんですよね。

それが今回は、思いっきりバラエティに富んだ3曲が、しかもアルバム中盤に配置されている。そして「エニグマ」はアルバムのリード曲に抜擢され、「告白」にはバンドの存在意義にも近いような重要な歌詞が乗ることになった。
なんというか、うっちー、ノッてるなあ! みたいな印象です。
オーケンが近頃やたらと「内田くんがカギになる」と語ってきたこととか、ソロ活動やその他いろいろなバンド活動とか、きっとまあ、いろいろきっかけや要因はあるんでしょうが、結果的にアルバムを支える、バンマス的な存在感がうっちーに宿っている気がしました。
それによって、おいちゃんと橘高さんの、今までとは違うアプローチもより活きているのかなあ、と。

そしてそして、そんなふうに、今まで(最近)のアルバムとは明らかに違うにもかかわらず、むしろ、だからこそなのか、めちゃめちゃに「筋少らしい」アルバムになっている、ということ。
筋少らしさとは何ぞや、というときに考えるのは「バラエティに富んだ音楽性」であり、「オーディエンスが参加して全力で楽しめるライブのエンタテインメント性」であり、「歌詞や語りの独特な世界観」であり、「オカルト」「プロレス」といった音楽以外のサブカルチャーへの親和性であり…といったところになるかと思うんですが、今回、たまたま入江選手への提供曲が含まれたというタイミング的なミラクルなんかもあって、それらすべての要素がこれでもかと全部入れされているアルバムになっていると思うんです。

バンドの個性が200%発揮されているうえに、これまでのアルバムとは明らかに違うことをやっているんですよ。
こんなん最高じゃないですか。

 「人間モドキ」たちのための名盤がここに爆誕してしまったなあ、と、今あらためて考えてみて、しみじみ思いました。

最終的に何が言いたいかというと、
普通じゃない自分に悩んでいる奴はみんな筋少を聴けばいいよ!ということです。

生きるのがうまくない自覚があって、なにがしかの救いを求める層が最初にアクセスするのに、とても良い作品になったのではないかと思います。
ここまで読んでいるような人はたいがい、こじらせた筋少ファンというかマニアであろうなとは思いつつも、もし万が一、筋少に興味を持っているけどまだ聴いたことがない…くらいの感じの方がいらっしゃるのであれば、声を大にして言っておきます。

とりあえず「Future!」、聴いてみてください。
そして、ライブに来てみてください。

これが、「Future!」を聴いて私が言いたくなったことのすべてです。

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アルバムが出てからずーっとぐるぐる考えていたことをやっと吐き出せてスッキリしました。
ツアーが楽しみだなあ、本当に。
結論か? 結論だ! 異議なし!

「ガラスの仮面展」に行ってきた

松屋銀座で開催中の「ガラスの仮面展」に行ってきました。
ら、とても楽しめたので感想をしたためておきます。

f:id:fumfumz:20170828233558j:plain潔いエントランスに、もちろんあの人からの紫のバラ

日曜夕方という時間帯を狙った甲斐もあり、混雑はさほどではありませんでした。
どうしても滞留はするけど、ごった返している感じではなかったし、先に他を見てから最初に戻る、という見方もできたので良かった。

どんな雰囲気(というかノリ)なのかは公式Twitterアカウントなんかがわかりやすく伝えているから見ていただくと良いんでないかしらと思います。

twitter.com

以下は、展示を見て個人的に思ったり感じたりしたこと。
全面的にネタバレしていますので、構わないという方だけお読みください。

■シンプルかつゴージャスな展示内容

全体として、原画でこれまでの作品の軌跡をたどっていく流れ。いたってシンプルです。

ガラスの仮面』の作品内をひと通り振り返ったあとに、おまけ的にメディアや舞台化関係、ほかの身内作品関係の展示物がある、という形。

印象的だったのが、壁面やコーナー区切りのカーテンなど含め、あらゆるものの色味が基本的にワインレッド/黒/ピンク/紫(のバラ)で統一されていたこと。

と書くとなんだか味気ないようですが、実際にはゴージャスなところはうんとゴージャスに感じられる演出がされていて、メリハリがあって良かった。

あと、各コーナーのサインや物販のPOPにいたるまで、あちこちに使われていたガラスの欠片のような多角形のモチーフも、この作品ならではだなーと思いました。

作品の持つ抑制の効いた気品ときらびやかさが、よい形で再現できていたのではないかと。

なお、場内は写真撮影一切禁止。
いろいろ考え方があるとは思いますが、基本的に展示物がほぼ原画のみである以上、これはしかたないのかな。

そのかわり、出口には顔ハメパネルがわざわざ3種類。

f:id:fumfumz:20170828235120j:plain一番やってみたくなるのは真ん中かなぁ

個人的には、顔ハメじゃなくて単体で被写体になるようなパネルとか、ひとつくらいほしかったなぁという気はするのですが、実際この形は幅広い年齢層のお客さんにたいへん喜ばれているように見えたので、アリだったのでしょう。

■悪ノリを含めた「ノリ」のよさ

全編通じて、とにかくノリノリでつくられている感じが楽しかった!

たとえば、この作品の代名詞ともいえるような、キャラが白目になっているシーンの原画ばかりを集めたコーナーなんてのもあるんですが、これ、「白目」がいわばネタ的に面白がられていることを、制作サイド・監修サイドが認識・許容していたからこそできたことであり、こういう柔軟さ、とても大事だな~と思います。

物販にしても、SNSでも話題を呼んでいた「泥まんじゅうチョコクランチ」「白目になるクリアファイル」をはじめ、制作サイドのニヤニヤが伝わってくるような、絶妙なグッズの数々に、見ているだけでこちらもニヤニヤしてしまった!

大都芸能や劇団オンディーヌの熨斗がついたお菓子や、作中劇をモチーフにしたチケットファイル類なんかも、ノリで買いたくなりました。

■総括:ガラスの仮面はホラーである、そして国民的コンテンツである

「これ怖かった~!」「おかしいよね…!」
有名なシーンの原画の前では、こんな会話がよく聞かれました。
マヤが川に飛び込んで「椿姫」のチケットを手にするシーン、「奇跡の人」の「ウォーター」のシーン、オオカミになりきるシーン、泥まんじゅうを貪るシーン…。

それらを改めて原画で見てみると、なるほど一種のサイコホラーだな…と改めて感じる。背景の演出とかね。

そこで他作品の原画なんかも見ながら考えるのは、美内先生はそもそもホラーの描き手としても著名であること。
作家としてのキャリアというものに無駄はなく、どんな作品の経験もその作家の一部となっていくのだなあ…ということを実感。

(ちなみに近い例としては、ささやななえこさんが連想されるかと思います。
『凍りついた瞳』シリーズの鬼気迫る描写は、ホラー畑経験者ならではの凄みではないかと)

 それと、もうひとつ強く感じたのが、来場者層の多彩さから、本当に幅広い年代の読者に愛されている作品なのだなーということ。
長寿作品のわりに重要な登場人物が少なく、一人一人のキャラクターを充分に立たせやすいというのもあるのだろうな。

多作であることもひとつの才能だけれど、ひとつの大作にずっと向き合い続けていること、そしてその作品で世代を超えた多くの読者の心を惹きつけつづけていることも、非常に得難く、尊いものだと思いました。

冒頭とラストにちょっとした映像とグラフィックによるややメタ的な演出があり、これが現実と作品世界の橋渡しとして絶妙だったなーと思います。

いつか完結した暁には、「こち亀」や「浮浪雲」のように、マンガ界を超えた一大ニュースとなるのでしょう。その日が来るのが怖いような、寂しいような、楽しみなような、不思議な気持ちです。

ところで、入場料1000円でこの内容にはたいへん満足したのでもうひと課金しようと「喫茶月影」で「月影パフェ」をいただいたんですが、容器の底の細くなってるとこにはまりこんだスポンジが食べられなかったことを恨めしく思ったことだけは記載しておきます。

f:id:fumfumz:20170829005053j:plain f:id:fumfumz:20170829005124j:plain 

f:id:fumfumz:20170829005225j:plain
正直くやしかった

東京会場の会期は9月4日まで!

www.asahi.com

https://twitter.com/fum_sz/status/901751696543453184

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