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『天の光はすべて星』(フレドリック・ブラウン/田中融二)

天の光はすべて星 (ハヤカワ文庫 SF フ 1-4)天の光はすべて星 (ハヤカワ文庫 SF フ 1-4)
(2008/09/05)
フレドリック・ブラウン

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ハヤカワ文庫の100冊にのろのろ挑戦中です。
翻訳ものは登場人物名が覚えにくいのでちょっと苦手意識があったのですが、
慣れてきたのがだいぶするする読めるようになってきました。

今日読み終わったのがこの『天の光はすべて星』。
フレドリック・ブラウンの名前を知ったきっかけは、手塚治虫の短編集
『ショート・アラベスク』のあとがきでした。
フレドリック・ブラウン風ショート・ショート」として紹介されている作品が
どれもすごく好きだったので、いつか読んでみたいなーと思ってはいたのですが
当時は文庫本は軒並み品切れで、新刊書店の店頭に並んでるのを
見たことがありませんでした。
ようやく古書店で『火星人ゴーホーム』を見つけて、2,3週間かけて読み終え、
とても面白いと思ったので他の作品も古書店中心に探していたところ、
創元SF文庫の『天使と宇宙船』『未来世界から来た男』が復刊されたのでした。

筒井康隆星新一藤子・F・不二雄を知ってしまっている身としては、
正直これらのショート・ショート集には「面白いなあ」ぐらいの感想しか持ちませんでした。
上記の作家たちがみんなこの人の影響下にあるってことはわかっていても
それはやっぱりどうしようもないことだと思います。

そんなこんなでその後復刊された『宇宙をぼくの手の上に』、
古書店で買った『宇宙の一匹狼』『73光年の妖怪』、ハヤカワの『発狂した宇宙』が
なんとなく積み本になってしまっている状態で、この本を読んだのです。

私は今まで、ブラウンという作家を読んでいたというよりは、
他の作家越しに伝わってくる印象を読んでいたのかもしれない。
星にとりつかれてしまった57歳の男を主人公に繰り広げられるこの物語は、
ある意味ものすごく現実的で、地に足がついていて、渋くて、
およそ「SF」という言葉に対して抱くものと違うイメージを与えます。
それこそがこの作品の魅力。
主人公のマックスは完璧な英雄ではないからこそかっこよくて、
だからこそ感情移入を誘います。
まさしく「SF」という器を借りた人間ドラマ。
後半の展開には電車内で涙をこらえるのに難儀しましたw

そして、これは訳の妙もあるんだろうと思いますが、流れるような、
シーンによっては散文詩のような文体がとても綺麗。
翻訳小説でも文章の美しさを実感することができるんだなあと
思い知らされた気がします。

眺めてるだけでうっとりするようなカバーイラストも、
そして何よりタイトルが本当に素晴らしい。
ずっと本棚に置いておきたい1冊になりました。
100冊クリアしたら積んでるブラウン本読むぞ!いつになることやら!

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髪を切りました。
美容師さん一人(と猫一匹)でやってらっしゃる、こぢんまりとしたいいお店だった。
いつも行ってたところより少しお高めだけど行ってよかったと思う。