バンブツルテン

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「谷川俊太郎 展」@東京オペラシティ アートギャラリー

東京オペラシティで開催中の「谷川俊太郎 展」に行ってきました。
とても面白かったし、いろんなことを考えたので、書き留めておきます。

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私が行った日は都築響一さんとのトークショーがあったこともあり、賑わってはいましたが、ベルトコンベア式にならざるを得ない種類の展示と違って自由に見て回れる形になっているので、窮屈な感じはありませんでした。

(ちなみにこのトークショーにも参加しました。現代詩をめぐる状況、SNS時代の詩の在り方、AIは詩だけは作れない…など、やわらかい雰囲気ながら示唆に富んだ楽しい時間でした)

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レポートにまとめる自信はないので…メモの一部


小山田圭吾×中村勇吾作品展示

場内は、一部を除いて/特定展示物の接写でなければ撮影OK。
展示と展示の間は、薄手の真っ白な布で仕切られています。

「ご挨拶」を経て、最初に入る暗い部屋は、上記の二人のコラボレーションで谷川さんの詩を表現した作品の展示室。
「かっぱ」などの言葉遊び系の谷川さんの詩が、一画面に一文字ずつ表示されて、同時にその字(音)を発する声がスピーカーから流れ、つなげて聞けば最終的にひとつの詩になっている。この形で、数編の詩を見て、聞きます。

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写真では伝えづらい

ぶっちゃけ音楽の印象がほとんどないんですが(環境音楽に近いものなのだと思うので、それもそれで正しいのではないかな)、とにかく、すごく根源的な視覚と聴覚でひとつながりの言葉たちを体感する感覚が、とてもとても面白かった。
まず、この時点でぐっと興味を惹かれました。


▼メイン展示「自己紹介」

続いて仕切り布をくぐると、そこには、巨大な平べったい直方体がたくさん立っています。ここが、メイン展示会場。

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不思議な圧を感じる

直方体たちの側面に、今回の展示のために書き下ろされた谷川さんの新作詩「自己紹介」が1行ずつ書かれていて、足を踏み入れた瞬間、この「自己紹介」という詩が、強弱をもって目に飛び込んできます。
この絵面だけでも結構びっくりする。

直方体はそれぞれ、「自己紹介」の、その側面に描かれている「行」に対応する谷川さん自身の暮らしや歴史をあらわすモノの、ちいさな展示室になっています。

「私は背の低い禿頭の老人です」の「行」には「ポートレイト」として等身大の写真が付され、「もう半世紀以上のあいだ」の「行」は「歴史」として、谷川さんが詩作に使われてきたツールの変遷の展示空間に、など。
(手書き原稿→ワープロ→PC。)

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鑑賞している人も含めて絵になっている感じ

現在谷川さんが使われているMacのWord上で、詩がつくられていく過程がそのまま展示されていたのもびっくり。
今は詩人だってPCなどで作品を書く。当たり前なのに、なんとなく「詩」「詩人」とPCって遠いイメージだったなー。

そして、反対側の側面には、谷川さん手書きの「ひとこと」がペタペタと貼られていて、それがとてもキュート。

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歴代のワープロ→PC、「ひとこと」の一例 

壁面に大きく掲示された谷川さん撮影の写真や、「自己紹介」の合間に立っているちいさな柱に載った「詩の本」にも、思わず見入ってしまう。

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そんなにものすごく広い空間ではないけれど、あっという間に小一時間経ってしまいました。

 

▼「自己紹介」の、あと

メイン展示室を出て、大きな白い薄布を隔てた向こうには、こちらも今回の書き下ろし新作詩「ではまた」が、二面の壁を使って書かれている。

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ただ詩が書かれているだけ、の部屋

その先にあるのは、長~~~~い谷川さんの年譜。
トークショーで話されていたが、東京オペラシティでの展示では、やたら長い年譜が掲示されることがままあるらしい)

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めっちゃ長い

そして最後に現れるのが、「谷川俊太郎から3.3の質問」。
3+1つの質問に対する16人の回答が、3つの大きなモニターと1つの小さなモニターに表示されていく。
阿川佐和子みうらじゅん浅野いにお最果タヒ又吉直樹、そしてSiri(!)…などなど、いろんなジャンルの回答者の答えは、姿勢も表現も自由で多様で興味深かったです。

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これもふしぎな絵面

展示は以上。
じっくりと詩を味わいながらゆっくり回って、約2時間。
ぜいたくな時間でした。

 

▼考えたこと:なぜ谷川さんの詩が好きなのか

以下は、展示を見ながらとか、見たあととかに、考えたことです。

谷川俊太郎さんの詩を、そうと初めて認識したのは、たぶん中学生のときでした。
国語の教科書に載っていた「三つのイメージ」に、なんだか強い感銘を受けて、この詩をルーズリーフに書き写して持ち歩いたうえに、授業の一環として(なんの授業だったんだろう、いま思えば)書いた「20歳の自分に宛てた手紙」に同封していました。
それは人生で最初の「詩人」と呼ばれる人との出会いであり、「詩」というものの面白さを感じた経験であった気がします。

国語の教科書というのはありがたいもので、その後も必ずいくつかの詩歌が載っていたので、著名な詩人の作品に触れる機会は教科書からもらえたわけですが、その中で「好き、ほかの作品もたくさん見てみたい」と思ったのは谷川さんだけでした。

なぜ谷川さんの詩に私が惹かれたのか。
もちろん、東京オペラシティで展覧会が催されるほどの国民的人気を持つ人なわけだから、大きな理由なんてなくて、単に「たくさんの人の心に響きやすい詩だから」かもしれないけれども、今回の展示とトークショーを経て、なんとなく、その理由の片鱗をつかんだ気がしました。

谷川さんは場内のメモ書きに、「抽象より具体が好き」と書いた。
とかく芸術分野って、抽象的なものこそが高等で、素晴らしくて、理解できる一握りの優秀な人間のためにあるのだ、みたいな空気を感じることがあります。
そんなとき私は、自分が「そういうものが理解できない、ピンとこない、素晴らしいと思えない、賢くも優秀でもないただのオタク気質の人間」であることを実感する気がして、勝手にモヤモヤしたりします。

だけど、平易でわかりやすい言葉で、しかも多彩な形式で、自由に、でもすごく深遠な、その少ない言葉には表出しないたくさんの想いとかを含んでいる谷川さんの詩は、私は、とても好きだと感じる。

そのことに、「ああ、それでいいんだな」と思えた。
抽象ではなく具体で、でも、その言葉の表層にとどまらないたくさんの情報を持っている、そういう表現が私は好きなんだな、だから私は谷川さんの詩に惹かれるのかなと、なにか、安心できました。

 

▼考えたこと:自分の好きな表現について

同時に今回感じたのは、私はおそらく、そういう、「言葉以上のものを含んでいたり、言葉以上のものに拡がっていく言葉」という表現が好きなんじゃないかな、ということ。

どの展示も、詩という「言葉」を、言葉を使わない方法(リアルな物質だったり、映像と音声だったり、写真だったり)で表現しようとしている様子がすごくエキサイティングに感じてテンションが上がったのは、つまりそういうことに興奮する性質なのではないかなと。

それは、私がマンガという表現が好きなことや、いくつかのミュージシャンの音楽がすごく好きなことにも通じることのような気がしました。
マンガって、「絵」から入る、見る見方ももちろんあるけど、私はあまり「絵」から入ることってなくて(あまり「絵」そのものに対する関心が強くない)、改めて思い返すと、台詞だったりモノローグだったり、そしてそれらが「無い」コマやページだったり、というものを読み込んで解釈することを、私は好んでいる気がします。

少し前までは、私は「物語」が好きで、マンガも音楽も「物語」のひとつの類型として好きなんじゃないかなと思っていたんですが(これは小沢健二が「バズリズム」に出演したときに語っていたことに「あっ」と思って考えていたことだった)、「物語」というより「言葉」が、私の「好き」のコアなのかもしれないなと思いました。

そういえば昔、水戸さんも、「音楽は言葉を言葉以上にしてくれる」とブログで書いていたことがあったっけな。

地球日記:2012年09月03日

そんなことにまで思いを及ばせてもらった「谷川俊太郎 展」。
谷川さんに関心がある人、詩に、言葉に関心がある人には、絶対オススメです。

そうそう、図録(?)の「こんにちは」もとても良かった。
Amazonでも買えますが、会場で買うと、レシートに谷川さんのひとことが付いてきます。

行ける人は会場へ、ぜひ! 

3月25日までの開催です。

谷川俊太郎展|東京オペラシティアートギャラリー