バンブツルテン

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「LOVE」(筋肉少女帯)ー異常で真っ当で変化球でストレートな愛のうた

今回は諸事情により初聴き時に抱いた感想を忘れかけてしまっているので、ツイートをつぎはぎしながら。ああ~こんなこと感じてたなー!とか、すでにちょっと懐かしくなっている。長い1ヵ月半だったなー。

LOVE

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01. 愛は陽炎

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ゆったりしたオトナな音楽をやりたいやりたいと言っていたオーケンだけれど、それをできる場としてオケミス(と特撮)を得たことで、前作の「ゾンビリバー」といい、今回のこれといい「サクリファイス」といい、逆に筋少では、筋少が求められる一要素でもある、思いっきり激しいメタルを意識してやろうとしているように思う。
ライブではサビ前のどこまで頭を振るかで迷った笑。延々と振れるから…
歌詞はアートワークに採用された「ステーシー」をちょっと連想させると思うのだけどどうだろう?

02.From Now

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初聴きの印象が水戸華之介&3-10chainっぽい!ということで一部で話題だった曲。

人間ワッショイ!

人間ワッショイ!

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むしろ楽曲としては、両者が共通のルーツのひとつに持っている70年代ハードロックってことなんだろうけど、どうしても「ワッショイ!」というワードが…っていうのと(このワード自体は楽曲提供オファー元さんからの指定だったとのことですが、少なくともうっちーは、お!ってなったのでは?と思うよね)、オーケンの声の伸ばし方がすごく水戸さんっぽいと感じたんですが、意外にというか、こういうストレートにアッパーで太い感じの曲が筋少にはそもそもあんまりなかったってことなんだろうな。

歌詞は、タイアップ話が持ち上がりかけていただけあって、筋少の中ではかなり衒いのない、まっすぐな、誰が聴いても「いい歌だね!」って言いそうな内容。
でもそれだけじゃなくて、そういうまっすぐな考えを100%信じることのできない語り手のスタンスが、なんというか、安心させてくれるなあ、と思う。 


03. ハリウッドスター

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パンキッシュで、くるくる展開してゴージャスに広がっていく、おいちゃんらしい曲。
発売前に一生懸命歌詞をリスニングしようとしていて、一番聴き取れない箇所が多かった曲でもある笑。固有名詞が多いからね。ハリウッドスターに詳しくない…
生きることを、人生を映画に喩える表現は、オーケンが何度も何度も繰り返しているもので、それはつまりオーケンが自然に持っている認識なんだろうなあ。
「この世は舞台、人はみな役者」はシェイクスピアだけど、舞台と映画はまた全然別物だと思う。

とか言いながら調べてみたら「人生はシネマティック!」という映画があった。

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知らなかったなー。ちょっと面白そう。

「人はみな自分の人生の主役である(だから、自分の思うとおりに生きるべきだ)」というメッセージは珍しくないというか、しごく真っ当な、まっすぐな、言ってしまえば陳腐ですらある言説だけど、「でも、同時に自分は誰かの人生の脇役でもある」という視点が完全に並列に提示されるところがオーケンだな~としみじみ思います。俯瞰。
それともちろん、ここで語られる「役者(ハリウッドスター)」が、輝かしさとどうしようもなさの間を激しく行き来する、危なっかしいものである点も。

「ハリウッドスターほどじゃないだろ」=「たいしたことじゃないでしょ」は、「ワインライダー・フォーエバー」の「よくあることだよね 珍しくもないね」にも通じますね。
そういえば「ワインライダー~」もハリウッドスターたちの(しかもジョニデの)歌だったわ。

 

04. ボーン・イン・うぐいす谷

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1億回再生を目指してということで貼っておきますね。

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実は、実は、個人的には、この曲、正直、あんまり、ピンと来ていなかったりします。
キャッチーであることはもちろん認めるにやぶさかでないし、ローズっぽいエディの鍵盤がオシャレで好きだな~とかは思うんだけどね。
アルバム通して聴いた中でも、あくまで個人的にですが、うーん???という感じで消化しきれていないところがあります。
「おまけのいちにち(闘いの日々)」を聴いた時に「大都会のテーマ」に対して抱いた感覚に近い。あれはカバーだったけど。
歌詞にしても曲にしても、自分に「寄せて」聴ける要素が少ないということなのかな。

MVは面白いです。イラストかわいい。
ジャスティン・ビーバー様に見つかってバズるとよいなあ。

 

05. 妄想防衛軍

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これは、ライブで聴いて印象がかなり変わった曲。音の洪水に飲み込まれる、これもまた、今までの筋少にはあまりなかったな…!という感じの展開に圧倒された。
昇り詰めて昇り詰めて、そのままフッと終わるところも好き。ため息が出る。

妄想にとりつかれた男の戦いの歌という意味では「ワダチ」っぽさがちょっとある。
最後のオーケンの絶叫は、近年の筋少にはあまりない、狂気すれすれの、擦り切れそうな孤独な苦しさを感じさせて、でもそれがちっともわざとらしくないというか、「曲に呼ばれて自然にそうなっている」感じがするのが、すごくいいなと思う。

 

06. ドンマイ酒場

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で、ものすごい緊張感に包まれて終わったところでこれ、という!笑
この落差があるから筋少が好きだよ…!

セリフをひと言ずつ回すのとか、ラップに挑戦とかはあったけど、ここまでのガチ小芝居(???)はさすがに初めてですね。
とてもニヤニヤしてしまう楽しい曲ではあるのだけど、笑いでコーティングされた歌詞の内容は、とても辛辣でとても優しいと感じる。

「普通になりたい」という思いって、そう思ってしまう時点で「自分は普通ではない="何か"である」という認識があるということでもあるんだよね。
もちろん、ここでいう「何か」はサイコキラーでも人間モドキでもなくて、「他の人より秀でた能力を持った人」ではあるけれども、自分が人間モドキであるという認識自体が、自意識過剰だと言われてしまえばそうかもしれないわけで。
自分が凡人、もしくは落ちこぼれであることを受け入れられないから、そんなふうに自分を特別視しているのかもしれない。「凡人でさえなければよい」は、「なりたいものなど実はなくて、なりたいという欲求があっただけ」に似ていると思う。

この問題は考えすぎるとドツボにはまるのでこのへんにしておきます。
「なんだっていいのさ 生きているのなら」とも言ってくれているしね。
(まあ、それで「悩みも消えたか」は結局「わからない」わけだが…)

おいちゃんファンとしてはマスターに\キャー/するのが楽しい。
「さあ皆で歌おう~」のところは、カウンターに横並びのメンバーが肩組んでグラスを掲げながら歌ってる絵面がどうしても浮かんでしまう。
自分で絵にできなくて残念です。

 

07. サクリファイス

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めっちゃカッコイイですね……!
というのが第一印象だったし、何度聴いても、めっちゃカッコイイですね……!って思っちゃうな…。
物語から藤子F先生の短編を連想しがち人間なので生贄と言われるとどうしても『ミノタウロスの皿』を連想してしまうのだけど、たぶん関係はないです。
あと考えちゃうのは手塚先生の『ザ・クレーター』の「生けにえ」だな~。
鳥葬は『ブッダ』で出てきたのがたぶん人生で最初に知るきっかけだった。(どうでもいいマンガ語り)
メタル曲+激しくて不条理な物語+オーケンの高音域シャウトということで「パブロフの犬」に印象は近くて、パブロフも大好きなので、この曲も大好きです。

「ご褒美」という語感のかわいらしさから、なんとなく、この曲の「僕」はカタカナの「ボク」に聞こえる。
「ハードな曲をいっぱい頑張って歌ってきたからここらで休ませてよ! ご褒美ちょうだい! ああ~でもあとちょっとだけここにいなけりゃいけないのね! 酷なものだ!」という内容の歌に聞こえるね。笑

 

08. 直撃カマキリ拳!人間爆発

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初出時に、タイトル何なんだよwww最高wwwwwwってなった曲。
でもこれ、昔よくあった映画タイトルのパターンのパロディなのね。すごい時代があったものだ笑。
軽快なロックンロールで特撮(バンドではない)ソングっぽくて、左耳のおいちゃんギターがとにかく気持ちいい。あとこの曲も鍵盤がかわいくて好きだな~。
男(の心)を喰うからカマキリなのね。
最後の「終劇」まで含めてチャイニーズB級アクションコメディ的に完成されててすごくいい。誰かに勝手にMV作ってほしい!笑

 

09. 喝采よ!喝采よ!

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大好き。ドリキャスでのおいちゃん歌唱が初聴きでした。
「生まれ変わったなら普通に生きれるか どうせまたここに立つくせに」でゾクッとする。
これもまた、「ステージでしか生きられない人間の生き様」という、オーケンが繰り返し歌ってきたテーマではあるけど、この曲ではそれをすごく普遍化して描いているというか、ある程度「引いて」描いている気がする。
言葉数が多くない分だけ余白が多い、想像の余地が大きいということもあるのだろうけど、この歌には「普通に生きたい」人間モドキ的な人々が共感する一方できっと、そうではない「ステージに立つ人」の多くもまた、共感を抱けるのではないか。
それだけこの曲の主人公はとてもオーケンらしくもありつつ、すごく抽象化された存在であるとも感じる。メイクをするシーンがあるからかな。
おいちゃんが歌っても全く違和感がなかったのは、だからかなあと。

あと、私は映画「ジョーカー」も連想していました。

「ジョーカー」を観ての感想。

https://www.instagram.com/p/B3mYI9KgRkE/

「ジョーカー」バットマンを知らずに観てもよいものか独自調査を経てアメコミ好きの知人からGOサインを得たのを機に観てきました。レビューとか見る限りは、知らないほうがむしろこの作品と向き合うには良い部分もあったのかもしれない。もちろん知っていたらより理解が深まる部分もたくさんあったのだろうけど。この作品が世界で評価されているのは、もちろん構成とか脚本とか演技とかすべてがよくできている、完成度が高いということが大きいのだろうけど、この作品が作られたのは、なんか本当に、世界のあちこちに「もう限界だ」という気持ちが満ちているからなのだろうな、という気がした。いわゆる「信頼できない語り手」的な面白さとか、抑圧され疎外されるマイノリティの視点での物語であることとか、自分が好きだと感じる要素がどんな部分かは説明できるのだけど、一方で言葉にできない感情的な共感、共鳴を強く覚えた映画でもあった。ゲイリーとの1シーンで堰が切れたように泣いてしまったな…。 .この物語を自分のこととして捉えてしまう、過剰なほどに彼に感情移入してしまう、そういう人とはいろんなことを理解し合えそうな気がするけど、そういう人は、自分たちが「そのタイプ」であることは表には出さないようにして生活しているのだろうなとも思う。自分もまたそうであるように。もはや割引サービスのある日でなければ劇場で映画を観ることはめったになくなってしまったからTOHOシネマズの日を狙い、鑑賞のお供は300円のコーヒー(S)で、その後は今観た映画のことを考えながらゴチャゴチャした雨の歌舞伎町を通り抜け、1円玉を並べて眠るガード下の路上生活者を横目に見ながら帰路に着き、スーパーで見切り品を買って狭い部屋に帰る。そんなシチュエーションまで含めて、なんというか、吐き気がするほど最高の映画体験だったなと思いました。#映画 #ジョーカー #jokermovie #joker


そう…インスタの長文はよそに埋め込むと邪魔なんだ…

 

10. ベニスに死す~LOVE

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半分打ち込み半分生楽器、なうっちー作のインスト。ライブではおいちゃん(とオーケン)休憩タイムだった。
抒情的ではあるんだけどグワーッとドラマティックに展開するのではなく静かに漂って不穏に終わる感じがうっちーっぽい気がする。
映画は観たことがないです。午前十時の映画祭でやった時に観ておけばよかった。

 

11. Falling out of love

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「お別れのあと彼女はバスの中で/誰ともつながりたくなかったから」という冒頭の2行がいきなりすごく好き。
SNSでの(というかTwitterでの)つながりを私はとても楽しんでいるけれど、「誰ともつながりたくな」くなる時間は、ある。よくある。

個人的には谷山浩子さんの「終電座」をちょっと連想し、同時に、まさにこのタイミングで訃報があった吾妻ひでお先生の描く女の子の絵で想像される曲になりました。

谷山さんの曲はほんの一部しか聴けてはいないのだけど、とりあえず「終電座」が収録されているアルバム「フィンランドはどこですか?」は、とてもおすすめです。

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筋少は今のところライブで披露していない曲であり、オーケンはオケミスでやるかも、と言っているようですが、もし楽器隊のみなさんの事情とかでないのだったら、少なくともまず筋少でやってからにしてほしいな…とは思ってしまうな。私は。
だって橘高さんは、オーケン筋少の演奏でこの詩を語るのを想像しながらこの曲を書いたのではないの?と思うから。

アルバム全体をしめくくる要素がちりばめられていて、最後に「ゆらめく陽炎」で締められて1曲目に戻る、という構成は、もう、さすがだな…! 上手いな…!という感じで、まんまと喜んでしまうね。
無限にループできる。

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「LOVE」のすごいところは全曲キャッチーなところだと思う。

正直に言います。「ボーン・イン・うぐいす谷」MVが公開になった時、私は、面白がりながら、少し困惑もしていました。「これがリード曲なのか…!」と。
そして、今回のアルバムは私にとって、「Future!」「ザ・シサ」ほどには手放しで「わ~~~~~~~! 筋少すごい~~~!!」と言えるものではない可能性があるな…と、うっすら思いました。

だからといって失望したとかでは全然なくて、作品によって好みの傾向に合う合わないがあるのは普通に考えれば当たり前だし、むしろ2年連続で出したオリジナルアルバムで続けて圧倒してくれたことが規格外にすごかったのであって、今回はひとやすみでも、それはそれでもちろん良い、くらいのテンションでいました。

その直前にドリキャスで「喝采よ!喝采よ!」を聴いた時は、すごくすごく良いな…!と思っていたので、いったん上がったテンションが少しゆるやかに落ち着いていた感じですね。

仕事の都合や財政的な事情もあって(+、上記のようなテンションの動きが多少、影響していないこともなかったと思う)、みんなでLOVEを試聴したという名曲喫茶スタパでの全員集合シンクロニシティライブもパスしてしまっていたので、本当に完全にまっさらな状態で聴きました。

それで結局、1周してすぐの感想が、これです。

 「筋少やっぱりすごいわ…早合点ほんとうにすみませんでした…」という心境にならざるを得なかった。

個々の楽曲に対する感想は上で書いたとおりですが、とにかくこのアルバムに特徴的なのは、一度聴いただけで一部は覚えてしまえる、キャッチーな曲の多さだと思う。
そう感じるのがなぜなのかを説明できる知識がないのが歯がゆいのですが、その中でなんとか考えてみると、どちらかというとそれ自体トリッキーな、「面白い」と感じる楽曲が印象的だった「Future!」「ザ・シサ」と比べて、「LOVE」の曲はわりとみんな、全力で「類型的」であるように思うんです。(最後の2曲は除く)

THE・メタル! THE・昭和歌謡! THE・小芝居!(SEまで入って!)みたいな。

もちろん、なんでもありのジャンル不明ごちゃ混ぜ感が筋少の大きな魅力であり特徴なのはずっとそうだけど、1曲1曲をここまで各ジャンルに明確に「寄せて」いるのってあんまりなかった気がして。

だからこそ、混じり気がないだけ耳に残りやすくてキャッチーなんだけど、一方で筋少でしかないのは、引き続きオーケンの歌詞が冴えまくっているからである、という。
なんでもありの楽曲を歌詞でひとつの世界観にまとめているという意味では、オーケン筋少の面目躍如だなあと思う。

メタルにも昭和歌謡にも私は全然詳しくないので、もしかしたらすごく的外れなことを言っているかもしれませんが、理由がどこにあるにせよ、とにかくキャッチーだなあという印象がとても強くあります。

そういう意味では、キャッチーの極致である(キャッチーさだけを狙いに行っている感さえある)「ボーン・イン・うぐいす谷」がリード曲なのはとても納得感がある。
あと、リード曲選びについてはオーケンがナタリーのインタビューで「愛という名の欲望」のイメージ、と語っていたことですごくストンと腑に落ちました。

natalie.mu

そしてこの記事を貼って気づいたけど、やはりこのアルバムは「11編の愛の物語」なのだなあ。

2年前に「LOVE=愛」がわからない我々の気持ちを掬い取ってくれた筋少ちゃんは、今このアルバムを通じて、「いろいろ考えて集めて楽しいアルバムにしてみたよ。ひとつくらいはピンとくるんじゃない?」みたいな投げかけをしてくれているのかもしれないな。

LOVEとは何なのだ? それってやっぱり、私にとっては筋少のことです。 

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毎年この時期はマジで筋少の新譜のこと以外なにも考えられなくなっていたけれど、今年は、DL販売開始後・CD発売前に新譜ツアーが(プレリリースライブ的な扱いだったとはいえ)始まるというスケジュールでペースがちょっといつもと違ったのに加えて、吾妻先生のことと、ドクターのことがあったので、正直、例年ほど脳のリソースを割けていません。

ただひとつ書いておきたいのは、そういう状態で行った筋少のライブが最高に最高に最高に最高に最高に最高に楽しかったということです。

推しが元気に生きていて、活発に前向きに未来を向いて活動しているのって、それを自分が楽しめるのって、とてもぜいたくで幸せなことだなというのを、改めて心の底から噛み締めています。

ポジティブなエネルギー出力1000%でネガティブな人間の心の闇を楽しく歌い飛ばしてくれてありがとう。
これからも、引き続き、お世話になりますね。

 

おまけ

 ドンマイ酒場のグラスが売られてて大好評なの素晴らしいですね!