2016年を振り返る~マンガ編
やるべきことはたくさんあるんだが、そのいろいろの前にやりたいことをさせてもらおう、ということで、2016年振り返りマンガ編。
一応ここまではやらないと、自分の中で年が明けた感じがしない。
今年も、#俺マン2016で挙げた作品を中心に。
卯月妙子『人間仮免中つづき』
— SZ (@fum_sz) December 30, 2016
紀伊カンナ『雪の下のクオリア』
永田カビ『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』
藤本正二『終電ちゃん』
雲田はるこ『昭和元禄落語心中』
梶本レイカ『コオリオニ』
谷和野『はてなデパート』
山本亜季『HUMANITAS』#俺マン2016
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衝撃の自伝的作品『人間仮免中』から数年。
当時、各種ランキング等で「体調が思わしくない」というようなことが多数コメントとして出ていたと記憶していたので(そして、どう考えても、快方に向かうような生活ではないのではないだろうか…? と、素人考えながら思っていたので)、この本が世に出るというだけでとても驚いてしまった。本当に店頭に並ぶのか…? とすら思っていた。
実際に店頭にあるのを確認して、手に取って、レジに持って行って(後述の永田カビさんの新刊と一緒に買った)、カフェでコーヒーを飲みながらゆっくり読んだ。
正直なところ、作者の生活は、病気との闘いという観点からは〇をあげられるものではないのではないかなあ、という気がしていました。
けれど、そういう次元ではなく、「生きていく」「最後の一瞬まで自分らしく生きる」ということを、この人は必死で実践しているんだなあ、ということを、この1冊を読んだことで強く感じたと同時に、自分の浅はかな感想を恥ずかしく思ったり。
どうぞ、ふたり仲良く、お元気で。
雪の下のクオリア (H&C Comics CRAFTシリーズ)
- 作者: 紀伊カンナ
- 出版社/メーカー: 大洋図書
- 発売日: 2016/04/27
- メディア: コミック
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後述の『コオリオニ』もそうですが、昨年は商業BL作品に手を伸ばす機会が増えた年になりました。
紀伊カンナさんはアニメーター出身とのことで、美しい画づくりの元はそこにあったのか…と納得。ただただ切ないほどに美しく優しい少年たちの世界は、誰にも似ていなくて、ずっと浸っていたくなる。
「エトランゼ」シリーズと迷いましたが、単刊完結ということでおすすめしやすいこちらをチョイス。物語としての締め方まで含めてとても美しかった…。 ところで紀伊カンナさん、最近はフィールヤングでも描かれてるんですね。onBLUE→フィールヤングのラインつよいな…
・『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』(永田カビ)
pixiv→Twitterで話題になってすぐに書籍化が発表されてた気がする。
最近はもう、ネットで話題になる作品は早押しクイズかよくらいの感じで版元さんが目を光らせているよなあ。
書籍化に際し、いかにもコミックエッセイ風なタイトルになったのが興味深かった。
このタイトルで敬遠したという声も聞いたけど、コアなマンガファンよりパイの大きいコミックエッセイ読者に届けるために、これはひとつの正解だったんだろうなあ。
いびつな親子関係、そこに端を発するいびつな自分自身をどうにかしたい作者=主人公が、人とのふれあいを求めながら自分を見つめなおす話。
心にいびつなものを抱えている、他のみんなみたいに上手に生きられていないと感じる人に響く内容もさることながら、ピンクを基調にしたかわいい画面、ザッと描かれているように見えるのにかわいらしく親しみやすい画風、ほぼ全編ページ4段組の均一なコマ割り(なのに見飽きない。『マスタード・チョコレート』とかに通じるフォーマット感かもしれない)とか、見るべきところがいっぱいある作品だと思います。
作者のその後の状況と心の動きを描いた『一人交換日記』も、苦しくなる1冊でした。
・『終電ちゃん』(藤本正二)
「終電ちゃん」は、“終電”が擬人化されたような、“終電”の妖精のような、はっきりと説明はしづらいが、そんな存在。路線ごとに存在する“終電ちゃん”たちは、乗り遅れそうな人々を一人残らず終電に乗せ、きちんと家へ帰すことが使命。
終電に乗らざるを得なくなった人、乗れなかった人、いろんな人間たちの事情と、それに“終電ちゃん”たちがそっと寄り添う様を描いた作品です。
終電の時間を気にする習慣のある職場環境にある、すべての人におすすめです。
どんな終電にも“終電ちゃん”がいるのだと考えると、なんだかふっと心が温まる。
関係ないけど、終電といえば谷山浩子さんの「終電座」という楽曲が好きです。
昭和元禄落語心中(10)特装版<完> (プレミアムKC BE LOVE)
- 作者: 雲田はるこ
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/09/07
- メディア: コミック
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よくぞ描き切ってくださった。祝完結、ということで。
老いて弱っていく八雲師匠と、八雲師匠に見えている世界の悲しさと恐ろしさと美しさの描写が圧巻だったのはもちろんのこと、ヨタ、小夏、松田さん…師匠を取り巻くたくさんの人たちの行く末を見届けられてうれしかった。
信之助の父親は誰なのかという点、私、うかつにも、これまで読んでいてあまり気にしたことがなかったなあ。そのへんを含みつつ振り返ると、また全然違った感想が出てきそう。
絶賛第2期放送中のアニメもとっても素晴らしい。超ハイレベルなプロの仕事のぶつかり合い。円盤欲しくなっちゃうなー。しかしアニメの円盤って高いのね…。
・『コオリオニ』(梶本レイカ)
実際にあった事件をモチーフにした、刑事とヤクザのハードBL。通り一遍の説明をするならばそんな感じになるこの作品が、俺マンランキングではまさかの1位。
私は2年前の『高3限定』で初めて梶本さんを知ったんですが、感性のまま描かれていた感の強かったあの作品と比較すると、かなり抑えたというか、論理に寄ったというか、読みやすい作品だと感じました。
全然悪いことではなくて、それだけの力量のある作家さんだったんだなあということを確認できた気がした。
…とか理屈を並べてますが、読んだ直後は「ふわーーーーーすげーーーーー」しか言えなくなる程度には度肝を抜かれました。
キツめのBL描写とバイオレンス描写に抵抗があるとちょっと厳しいかもしれませんが、「あんまり得意じゃない」程度であれば読むべし、です。
ミステリー、サスペンス、クライムアクション……そういうジャンルで、これだけのものを描ける作家さんって何人もいないだろうと思う。
この作品のあと、一度は商業活動を辞めることを考えられたよう。ですが、現在は「ゴーゴーバンチ」で新作を連載中。この才能をマンガ界がみすみす失うことにならず、本当に良かった。
・『はてなデパート』(谷和野)
谷和野さんは3年連続で俺マン入り。この作品ははじめての連作ですが、構成がとても巧みでした。
変わらない、優しくて暖かくて少し不思議な世界観にじーんとする。
百貨店という容れ物が持つ力って、とても大きかったんだろうなあ。
・『HUMANITAS -ヒューマニタス-』(山本亜季)
これはTwitterでおすすめの声を見て読んだ作品。
派手ではないけれど、数奇な生き方をせざるを得なかった人間の生活と生涯を静かに描いた短編集です。硬派な1冊、という印象。
ここ数年は本当に、スペリオール発のいい作品が多いなあ。
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以下は次点に回した作品たち。
・『よなよなもしもし』(丸顔めめ)
よなよなもしもし (POE BACKS BABY COMICS) (POE BACKS Babyコミックス)
- 作者: 丸顔めめ
- 出版社/メーカー: ふゅーじょんぷろだくと
- 発売日: 2016/08/24
- メディア: コミック
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これも商業BL。奇妙な読み味の短編集ながらBLっぽさも十分に満たしていて、そのへんのバランスがいい作家さんなんだろうなあという気がした。
・『西荻窪ランスルー』(ゆき林檎)
アニメ制作会社を舞台にした青春群像劇。10年代版「アニメがお仕事!」的な雰囲気がありつつ、王道ラブコメの香りも出てきてにやにやする。
・『谷崎万華鏡』(中村明日美子ほか)
谷崎潤一郎の小説を超豪華執筆陣が自由にマンガ化した作品を集めたアンソロジー。
なにせ豪華である。個人的に谷崎潤一郎に対して思い入れはないんだが、こういう企画がは老舗出版社らしくて素晴らしいなーと思った。
・『世界で一番、俺が〇〇』(水城せとな)
水城さんの新作は「イブニング」連載ということで、青年マンガ!
以前にこの人の作風は青年マンガ的だと語られていたのをどこかで見たことがあったのを思い出す。
まだ1巻ながら、人の嫌~な面を、読んでいて嫌~な思いをさせないように描き出していくのがやはり上手い。続きが楽しみです。
・『僕たちがやりました』(金城宗幸、荒木光)
つい続きが気になってしまう展開にずるいと思いつつも読み続けてしまう…と思っていたら、最新刊では展開が終息に向かいそうな感じで少し安堵。
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そんな2016年でした。
今年はもうちょっと頻繁にブログを更新したいです(毎年言ってる)